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14.打っても打っても認められない

この、性格が嫌いなんじゃないです。打ち方が嫌いなんです。 自分の理想としている打ち方じゃないもんですから、どうやっても使ってくれない。

である日、まあ亡くなりましたけども、西垣さんていうね、 当時の代表がいたんです。で、代表命令で、私一軍に上がったんです。 おそらく…今のナベツネさん以上の力あったんじゃないですかね。あいつを使え、って。
で、今でも覚えてるのは七月に、7−3くらいで負けてたのかな、 日生球場の近鉄戦。で、たまたまその日NHKで放送やってたの。 で、ツーアウトで、どうせこの試合負けだろ、お前代打行って来い。で、行ったんです。

で私も、馬鹿ですけどね。全国放送ですよ? 秋田まで映ってんですから。大阪のゲーム、秋田で映るんですからね。 おそらく親兄弟は楽しみに見てたでしょう。 一球二球目待ちゃいいものを、初球、ホームラン打ってしまった。
アナウンサーが落合っていうのは、どういう選手で、 どういうポジションで、年は幾つで、っていう前に打っちゃったんです。 そこでもう消えちゃったんですから。
そしたら次の日スタメンですよ。

でも出ても出てもね、結果出さなくても使ってもらえる選手と違ってね、 この一勝負に賭けなきゃ明日はないってような感じで、これは必死でした。 で、まあこういう名残りが残ってるかどうかは分かりませんけども、 ピンチヒッターに出て行くと大概初球ってのは、変化球が来るんです。
これ不思議でしょ? 計ったように決ますからね。
でたまたま、鈴木さん、真っ直ぐを放って来たの。インサイドで。
どうせダメだったら三回振って帰りゃあいいやと思ったその初っ端に、 まぐれ当たりで左中間にホームラン、行ってしまったんです。 これは“行ってしまった”んですよ。振った後は私には責任ありませんから。
振るまではいろんな事を考えますよ。 でもバット当たって前飛んでからだから、オイこれを捕るなとかね、 リモコンじゃないですからこれあっち行ってくれこっち行ってくれって言えませんから。 それが、運よく、ホームランだった。

で、次の日スタメン。でも、二打席しかくれないんですよ。 最初にヒット打って二打席目凡退だったらすぐ交代なんです。 で、たまたま近鉄戦終わって南海戦行ったら、 えー、三試合でホームラン三本か四本打っちゃったんですね。

で、そのまんまシーズン続けてくれりゃあいいなと思いながら、オールスター休みなんですよ。 でオールスター休み明けが、阪急と、北海道行きましてね。
まあ私の第一の恩人が鈴木さんだとすれば、第二の恩人は、 ここで投げてくれた稲葉さんっていうね、 カーブのいいピッチャーがいたんです。
で、ゲームは負けたんだけども一打席目・二打席目、ホームラン打っちゃった。 で三打席目、レフトフェンス直撃の二塁打を打った。
そっからです。私の野球人生がちょっと花ひらいたのは。

んで、シーズン終わりました。
で、半分で十五本ホームラン打って、当然次の年ってのは、 一軍のキャンプで、迎えられるんだろうと。
期待して行ったら「お前、二軍からだぞ」って。
ここまでやっぱ嫌われたか、って思って。(場内、笑い)

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「自慢だ!」
「一見、苦労話に聞こえるがこれは自慢だ!」

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