TROUBLE 2

■藤王伝説(2005年4月)
    【事件ファイル】

    2005年2月27日午前4時頃、 一宮市内のコンビニで、アルバイト店員(22)が掃除をしていると一人の男が因縁をつけてきた。

    「俺がいるのに何で掃除をするんだ!」

    と言うなり、男は店員の腰・あごを殴る蹴るの乱暴に及び、店を出ていった。

    それからおよそ一ヶ月後の3月27日午前零時半頃、再び男が同じコンビニに現れた。
    店長(28)が以前の暴行について男に問いただすと、男は持っていた弁当入りの買い物袋を振り回し、 店長にまた暴行を加えた。

    「お前の監督が悪い!俺は藤王だぞ!」

    店長を殴りつつ同時に自己紹介をする男。しかしこの自己紹介により秒速で身元が判明し、 男は4月22日に愛知県警に逮捕された。
    藤王康晴、38歳。
    1983年、中日ドラゴンズにドラフト1位で指名された元プロ野球選手である。



    「元スポーツ選手の事件」なら割とあるが、 この事件が飛びぬけて特異で、 日本列島に一大センセーショナルを与えたのは、 藤王のもはや伝説となった名文句にある。
    いわく、

    「俺は藤王だぞ!」

    このセリフは藤王の現役時代を知る中日ファンのみならず、 藤王を知らない、野球に興味のない子ども・主婦層にまで幅広く広がり、 お茶の間の日本人1億人のハートをがっしり鷲掴みにした。

    「俺は藤王だぞ!」
    「……だから!?」


      ☆   ☆   ☆   ☆


    事件当時、被害者の店長は28歳、アルバイト店員は22歳である。
    藤王の全盛時はドラフト1位指名された1983年がピークであるが、 ドラフト当時コンビニ店長は6歳、アルバイト店員に至っては0歳である。
    0歳と6歳の子どもでさえ“知っていなくてはならない”存在、それが藤王なのである。

    事件後、日本中の小学生・中学生の間では掃除の時間などに 「藤王ごっこ」が大流行り、 その年の流行語大賞の得票では「俺は藤王だぞ!」が記録的な票を集めたと言われているが、 流行語大賞はオウム事件以降「悪質な事件に関わる言葉はランキングに入れない」という不文律が出来ており、 藤王への“まぼろしの史上最多票”は闇から闇へ葬られ、 得票数2位の「チョー気持ちいい」(北島康介)が繰り上げ1位となっている。


    なお、「俺は○○だぞ!」という言葉ひとつで世界を支配したのは歴史上、 ジャイアンと藤王の二人しかいない。

    ex.) 「♪俺はジャイアンだ〜」