『落合にきけ!』 ISBN4-02-257478-X C7005 …二〇〇〇年三月二十五日発行。 落合博満(おちあい・ひろみつ) 一九五三年十二月九日秋田生まれ。秋田工業高校卒業。東洋大学中退後、東芝府中に入る。 都市対抗野球出場、アマチュア全日本代表などを経て、 一九七九年ドラフト三位でロッテオリオンズへ入団。 八十一年に首位打者に。八十二年、八十五年、八十六年の三冠王、 MVP二回。首位打者、本塁打王、打点王各五回など数多くのタイトルに輝いた。 八十六年オフにトレードで中日に、 九十三年にはFA宣言によって読売に、 さらに九十六年オフには日本ハムに移った。 九十八年のシーズン終了とともに現役を退いた。著書は多数。 最新刊は『プロフェッショナル』(ベースボールマガジン社)。
▼野球は、守りのいいところ、投手のいいところが、ある程度の勝率をあげられるというのが基本だと思う ▼いくら監督が変わったからといって、一年で戦力アップはあり得ない ▼未知の戦力に期待するというのは、裏を返せば広島の弱さでもある ▼優勝は選手の力であって監督の力ではないということは、九十九年の阪神が証明している ▼飯田の、「一点取れないなら、守りで一点とらせないぞ」という気概は大切にしたい ▼斎藤のエースとしてのプライドを考えるなら、いくら不調でも開幕阪神三連戦で使ってほしかった ▼野球は一球ですべての流れが変わる ▼普通だったら「優位に立てた」というのに、ヒーロー・インタビューで「これで福岡に帰れる」というひとことを聞いた。この言葉がすべてだった ▼いい状態で、シリーズに入ればよいが、ちょっと歯車が狂うと、今までの「いいもの」が出なくなったり、守れたものが守れなくなるものだ ▼言い尽くされた言葉だが、「野球は筋書きのないドラマ」だ ▼選ばれし人間の、体力と技と戦術が絡み合って、はじめて、「凄い、素晴らしい、(勝負が)怖い」野球になる ▼新任の監督で何がいちばんコワイかというと、前任者のやり方をそのまま踏襲したくないという心理が働いて、わざわざ手を加えてしまうことだ ▼そもそも巨人はお金をかけているだけあって、いい選手を抱えている。潜在能力はたっぷりある。ところが問題は、選手がその能力をうまく発揮できないということだ ▼人からとやかく言われるうちはだめ ▼優勝戦線からストンと落ちていくところは、日を追うごとに使う側と使われる側との関係がぎくしゃくしてくる ▼野球というのは四月、五月、六月は勢いで上がる。七月、八月、九月と勝ち続けるところが本当に力のあるところだ ▼よくおもしろい野球という。だが、おもしろいだけではいけないのだ ▼どの球団も練習内容は変わらない。どこで違いが出るかというと、球団が抱える選手の意識だ ▼捕手が八人全部を取りまとめる司令塔だとしたら、ファーストは内野手の司令塔になっていかなくてはいけない ▼レギュラーの座を誰かが与えてくれるまで待っているのではなく、自分ではいあがってレギュラーをものにしろ、ということなのだ ▼どの球団でもいえることだが、選手のスペアはないのだ ▼それを解決すれば優勝できるのかというと、そうではない。要は、十二球団の監督が九十九年はどういう野球にするのか明確にし、それを選手にしっかり叩き込めるかだ ▼シーズン途中で方向転換すれば、そのチームは空中分解し、レースから脱落してしまうだろう ▼避けて通れる病気やケガは避けて通らなければいけない ▼投手が悪いというのは、捕手が悪いということになるのだ ▼「君は打たなくていい。打たなくていいから、きちんとインサイドワークを勉強しなさい。捕手としての仕事は打つことではなくリードすること。その研究に自分の時間を費やしなさい」 ▼表情を表さない投手というのは、打者にとって非常にやっかいだ ▼タイトルをとると、それを離したくないというのが人間の心理というもの ▼目先の一勝よりも、これからの十試合をどう戦っていこうかと、長期で考えることだ ▼星野監督と山田チーフコーチ、山田チーフコーチと投手たちとの、それぞれの信頼関係がものをいった ▼いつ、いかなる場合でも、投手には「こういう場面ではこういう仕事をするんだ」と言い含め、選手を納得させてから投げさせる。だから、選手たちには、どうしてこういう使われ方をしなければいけないのか、どうしてマウンドを降りなければいけないのか、と言われなかった。投手たちに不平不満がなかった ▼「いちばん大事なのはペナントだ」という星野監督の言葉に同感だ ▼いくら順調に回を運んでいても、ひとつの采配ミスで、ちょっとした凡プレーで、流れは変わる ▼それは七回表ダイエーの攻撃で起きた。二点リードでの一死一、三塁。それまで無安打の好投をみせた永井智浩投手の打席にダイエー王監督は代打を立てた。ネット裏では「なんでここで代えるんだ」というのが大方の見方だったの違いない。私も記者席にいたが、思わず「えっ」と声が出た。正直いって驚いた。私なら永井投手をそのまま打席に立たせ、続投させただろう。ところが、王監督は違った。が、よくよく考えてみると、無謀でも奇襲も奇策でもない。王監督は自分のチームの勝ちパターンをいち早くつくりたかったのだ ▼王監督の勇気ある采配がダイエー・ナインに運を引っ張り込んだ。シリーズの流れを変えた。これが野球の面白さなのだ ▼球団と選手のやり取りは、いわば社外秘であり、選手のプライバシーでもある。それを公表した球団の態度は、選手が不信感を抱いて当然だ ▼前シーズンが終わってからの、つまり十二月一日から一月三十一日までをどう過ごしたかで、翌年の春キャンプが有意義なものになるかどうかが決まり、翌シーズンの活躍にもつながる ▼よく人から優勝したチームの翌年の調子はどうかと問われる。じっくり観察すると、じつはオフのときの選手の契約更改が、いちばん影響を及ぼしている ▼優勝は一人の選手だけで得たものではない。目立った選手だけが契約更改で大幅な増額だったら、ほかはクサってしま ▼選手の言いなりに企業がお金を払っていると、そのうち自分で自分の首を絞める ▼プロ野球選手はキャンプの様子を見せるのではない。シーズンで数字を残すことが最終目的なのだ ▼野球界では、よくキャンプインの二月一日は同じラインでスタートする、差別も区別もないというが、そんなことはない。スタートラインは明らかに違う ▼この世界では区別と差別はあっていい ▼私は、ファン投票で最高得票を得た選手ひとりを除いた二十九人すべてを、オールスター戦で采配をとる監督が決めてはどうか、と思う ▼制度を守る球団もあれば、守らない球団もある ▼本当に、一億円プラス出来高払い五千万円で動いているのであれば、私がこういうことを言う必要はない。噂でモノを言うのはいけないが、火のないところに煙は立たない。 ▼故障というのはそもそも選手自身が自己管理を怠ったからだということ。選手のオフの過ごし方に原因があるということだ。ここでひとつ例を出そう。横浜の佐々木だ ▼監督や選手は、今を戦っているのだ。どうか雑音を入れずに、プレーに集中させてやってほしい ▼私は、以前から一軍と二軍のユニフォームが同じなのはどうかと思っていた。一軍と二軍を差別化することで、二軍選手のモチベーションを高めないといけない ▼五輪はアマチュアの牙城であるべきで、野球も五輪出場はアマチュアだけのチーム編成で十分だと思う ▼自分に対する球団の対応が悪いとか、誠意が感じられないとか文句を言ってた。軽々しくFA宣言も口にしていた ▼彼のこの態度はいかがなものか。球団に不満をぶつけるなど、お門違いだ ▼この頃、プロ野球選手たるものに、野球協約や統一契約書をきちんと把握せずに不用意な発言や行動がみられるのは大変遺憾だ ▼FA制度は球界の活性化のためにあるわけで、選手のわがままを受け入れる制度ではないということだ。なかには勘違いしている選手がいるようだが、きちんと認識すべきだ ▼今回の予選で、日本代表として出場した選手がいかにいろいろなことを学んだか、ということだ。それは若手だけではない ▼今の子供たちの野球は、まず新品のユニホームを取りそろえるところから始まる。勝負にこだわり、勝つための攻守を指導者は教える。これではまるで、野球が仕事になってしまっている ▼うまいチームもあれば下手なチームもある。遊んでいるチームと勝ちに来ているチームがはっきり分かる。プロを目指しているなという子もいれば、ただ野球が好きな子もいる。私の思いはひとつだ。楽しくって仕方ない野球を子どもたちの心と体にしっかり滲み込ませてやりたいのだ ▼球場にしろ、投手にしろ、審判にしろ、ジンクスはある。が、現役時代にそれを絶対言ってはいけない。この球団へ来たらだめだとか、いいとかは言わないことだ。だめなんだ、と言ったときにはもう負けている ▼一プレー一プレー気を抜かない。勝負を捨てない。最後まであきらめない。こんな一途さが高校野球のいちばんの魅力だと思う。こういうところをプロ野球の選手は少しは見習ってはどうか。そうしたらファンが試合途中なのに球場でさっさと帰り支度をしたり、テレビのチャンネルをかえる、ということがなくなる。 |