『激闘と挑戦』 ISBN4-09-387157-4 …平成七年六月六日発行。 落合博満 一九五三年十二月九日、秋田県生まれ。秋田工業高卒業、東洋大学中退後、東芝府中に入社。 三度の都市対抗出場、アマ全日本などの実績を残し、七十九年ドラフト三位でロッテオリオンズに入団。 八十一年に初めての首位打者を獲得。以後、八十二、八十五、八十六年の三度の三冠王をはじめ、 MVP二回、首位打者、本塁打王、打点王各五回など数多くのタイトルを手にした。 八十六年に、一対四の“世紀のトレード”で中日へ移籍。 さらに九十三年には、フリーエージェント宣言をして読売へ入団。九十四年の日本一に貢献し、 九十五年、十七回目のシーズンを闘う。
▼日本のプロ野球は六十年の歴史があるけれど、今の風潮では名球会の選手だけが素晴らしい選手、野球界のエリートだという受け止め方がされてるでしょう。その人たちが素晴らしいことは確かだよ。でも、入会資格のない明治生まれや大正生まれの選手にも大変な実績を残した選手はいるし、昭和生まれで名球界に入ってない人でも凄い選手はいるんですよ。それに、二千本安打、二百勝という数字の区切り方にどういう意味があるのかもよく分からない。そうすると、会そのものの意味に疑問を感じるんですよ ▼オレ、実は六番は軽い番号だと思っていたんだ。だから六十六番がいいかなと・・・ ▼これから五年後、十年後には、今、アメリカで問題になっている選手のストライキなんかも日本の野球界で起こる可能性があると思う ▼百人欲しい球団は百人抱えればいいし、ウチは少数精鋭で行くという球団は五十人なら五十人でいい。プロに入ったあと、ただの石ころで終わるか、ダイヤモンドになるかは本人次第。でも、門戸だけは開いておかないと、この世界の繁栄はないと思う ▼ジャイアンツというのは、何て練習しない球団なんだろうと思ったよね。中日が特に練習しているというわけではないけれど、それでも中日よりかなり練習しない。 ![]() ▼誰かがチームに入ることで自分がゲームに出られなくなると考える奴がいるかもしれないけれど、それは負け犬の考え方だよ。そうじゃないんだ。誰が来ても、自分で力をつけて自分がゲームに出られるようにしなきゃいけないし、新しい奴を連れてこなくてもいいような力を自分がつけておくべきだったんだよ。過去にそれだけの時間はあったはずなんだから。だから、原因はすべて自分にあるんだ ▼名古屋というのは中日のユニフォームを着ているときでも、いいときはいいけれど、悪いときは相手よりも自分のチームの選手を野次り倒すというところがある ▼ピッチャーは、打たれたときは絶対に打った打者をいい気分にさせておかなくちゃいけない。我々打者は、抑えられたときは絶対に抑えたピッチャーをいい気分にさせておかなくちゃいけない。だから、オレは打っても「たまたまですよ」とか「真っ直ぐが来たので振ったら、当たって飛んでいった」ぐらいにしか言わないだろう。“コンチクショー”と思わせるようなことを言って喧嘩を売っちゃいけないんだよ ▼我々には野球という仕事がある。そこで弱音は吐いていられない。痛くたって痛い素振りは見せられない。 ▼野球をやってる限りつきものなんだよ、デッドボールというのは。ただ、同じデッドボールでも、狙ったデッドボールとたまたま手元が狂ったデッドボールの、やっぱりふた通りあるんだよ ▼野球選手というのは百三十試合に出ての評価だからね。だから、百三十試合に出た選手、規定打席に達した選手の年俸は絶対に下げるべきじゃない。たとえチームが最下位に終わろうがね ▼あの試合に関しては一回もマウンドに行っていない。絶対、流れを断ち切ったらいかんと思っていたから。それだけは気を遣っていたんだ ▼勝ちゲームをほんの些細なことから落としたりすると、流れというのはころっと変わるんだ。だから、石橋を叩かなきゃいけないところは、絶対に石橋を叩かなきゃいけないんだ。相手を殺せるときは確実に殺しておかなければいけない。生半可に生かしておくと後が大変なんだよ ▼勝つのには勝ちっぷりがあるのと同じように、負けるのにも負けっぷりというのがある。だから、負けてもシュンとしちゃいけないんだ ▼日本にプロ野球が出来てから六十年たっているわけだけど、一九六〇年代のナンバーワン・プレーヤーは長嶋さん、七〇年代は王さんでしょう。八十年代はといえばオレだと思う。そうやって時代は流れて来た。 ![]() ▼最近の契約更改を見ていると、「だれそれがいくら貰ったから、オレもこれだけ欲しい」と言う選手がいるでしょう。でも、他人は関係ないんだ。我々は他人に値段をつけてもらうんじゃなく、自分で自分の値段をつけるべきなんだ。だから、オレの契約更改では、いつもオレの方で先に値段を言っちゃう。オレはオレに一億円という値段をつけました。それを買うか買わないかは球団が判断して下さい。買ってくれないならトレードに出して下さい。これが契約更改の本筋じゃないかとオレは思う ▼女の子と遊んだり、酒を飲み歩いたり、旅行に行ったりとサラリーマンの人と同じように楽しんで、なおかつ野球もうまくなりたいなんて、とんでもない。そんな生易しい世界じゃないんだから。今、お前がやらなきゃいけないことはどっちなんだ、野球なのか、楽しみなのか。野球が一流になれば、楽しみなんか後からいくらでもついてくるんだ。それが分ってない。今、楽しみを追いかけてる余裕、暇なんかないはずだよ ▼ふて腐れたら自分が損なんだ。認めてもらえないんだったら、認めてもらうようにすりゃいいわけだよ。なのに、他人に責任転嫁しちゃう ▼オレが野球をやめるときには、任意引退にはしてもらわないつもりだよ。自由契約がいい。そうすれば、いつかまたどこかのチームで現役に復帰できる可能性だってあるわけでしょう。何でもいいんだ、野球が出来れば。ずっと四番を打ってきたからって、四番にもこだわってない。野球が続けられるのであれば、打順はどうでもいいんだよ、オレは。 |