『不敗人生』 ISBN4-09-387212-0
…一九九七年二月二十日発行。

落合博満
一九五三年十二月九日、秋田県生まれ。秋田工業高卒業、東洋大学中退後、東芝府中に入社。 三度の都市対抗出場、アマ全日本などの実績を残し、七十九年ドラフト三位でロッテオリオンズに入団。 八十一年に初めての首位打者を獲得。以後、八十二、八十五、八十六年の三度の三冠王をはじめ、 MVP二回、首位打者、本塁打王、打点王各五回など数多くのタイトルを手にした。 八十六年に、一対四の“世紀のトレード”で中日へ移籍。 さらに九十三年には、フリーエージェント宣言をして読売へ入団。 そして昨年、読売を退団して日本ハム入りし、 九十七年、十九回目のシーズンを闘う。
この本を書いてる途中、清原の読売へのFA入団が決定、
同時にところてん方式でオラの解雇が決まったんだ。
ナビゲーター落合

▼百本近くの映画を見るんじゃないかな。一日に四、五本見ることもあるよ。でも、頭には残っていない。ボーっとしている。だから、見始めて、『あ、これ、見たことあるわ』と気が付くことがよくある。オフの間は俺、ふ抜け人間だよ。粗大ゴミだよ ▼社長には、四年でも五年でも俺にジャイアンツのユニフォームを着せるという意思があったんだ ▼ところが、フロントの三人は何をどう取り違えたのか、社長の言葉を“落合のクビを切ってもいいんだな”と勝手に解釈しちゃったらしい ▼フロントが俺をクビにしたいなら十月の時点で言ってくれればよかったんだ。結局ね、清原の保険が俺で、俺の保険が広沢だったわけだよ ▼今回、これだけ混乱したのは、フロントがフロントの仕事をしなかったからだよ ▼「お前、今年限りでクビだよ」と言われても、俺は傷つきもしないし、そんな馬鹿なと怒ったりもしない。ああ、そうなの。それで終わったんだよ ▼俺が好きなのはジャイアンツじゃなくて、長嶋茂雄なんだよ ▼トレードやFAで他のチームから選手が入って来ると、OBの人たちは必ず文句を言うでしょう。若手の力が伸びてきているのに、どうして外から人を連れて来るんだって。でも、若手が伸びていないんだよ、ジャイアンツという球団は ▼巨人の若手がなかなか育たない理由は、これははっきりしている。練習していないからだよ ▼ヤクルトとの交渉にはこっちで車を用意して出かけたんだけど、日本ハムの時はフロントの重役の人がわざわざ家まで迎えに来てくれたんだよ。小さな事かも知れないけど、誠意を感じないわけにはいかなかったね。

落合とシゲオ

▼若い選手の体が養殖のハマチなら、俺は天然のハマチだろうな。で、自然に出来上がった体は、自然に落ちていく。じょじょに落ちていく。 ▼だけど、筋トレで作り上げた体は筋トレをやらなくなったら、急激に落ちていくんだよ ▼野球の体は野球で作れ。これが基本だと思うんだ ▼よく「選手としてやるだけのことはやったから悔いはありません」というようなことを言って引退していく選手がいるけれど、俺はまだやり残したことがいっぱいあるんだよね。これをやりゃもっとうまくなる、あれをやりゃ野球がもっとうまくなるというのが、まだなんぼでもあるんだよ ▼レギュラーをつかむくらいのレベルになってから、本当の野球人生が始まるんだ ▼俺はヒットやホームランを打ったと時にはオーロラビジョンは見ない。見るのは、ファウルしたときだよ ▼長い野球人生の中でたった二回だけだよ。「この打席は完璧に打ったな」と思えたのは ▼だれだったか覚えてないんだけど、あるピッチャーにぶつけられたか、頭の上に投げられたかしたんで、ピッチャーライナーでそいつにぶつけてやろうと思って、その通りにできた ▼それにしても、技術の追求には終わりがないね。

落合家の皆さん

▼昔は年俸を一千万上げるのも難しかったのに、今は簡単に何千万も上がってすぐに一億円だ、二億円だとなる。もっとも、そういうふうになるようにしたのは俺だけど ▼二軍の選手というのは本当の意味でプロ野球選手とは言えないんだ ▼乱闘になったら絶対に味方を止めちゃいけない。これが野球界の鉄則なの。味方を止めると、そいつと止めた本人が怪我をしちゃうから ▼俺が中日に入った頃は、ベンチが指示を出したのに相手にぶつけなかったピッチャーがファームに落とされるケースもあったんだから ▼だから、五回表に俺が小島から腰にぶつけられたときも、ベンチの方針に従わざるを得ないピッチャーもかわいそうだなと思ったから、怒らなかった。中日のピッチャーに同情したんだよ ▼昔の選手は怪我に強かった。怪我をしにくいと言うんじゃなくて、少々の怪我では絶対に休まなかったという意味でね ▼俺は本来、選手の怪我のことは公表すべきではないと思ってるんだ。

落合とノブタン

▼俺が今のバッターで本当に認めているのは、広島の前田智徳だけだよ ▼だいたい、俺、「前田」とは呼ばない。「おい、天才」って呼ぶもの ▼もし俺が監督になって「だれが欲しい」と聞かれたら、いの一番に「前田」と答える。他は要らない ▼今のピッチャーで昔のピッチャーらしい考え方を持っているのは、今中ぐらいじゃないの ▼今の現役で野球について深い話が出来るピッチャーは、広島の大野ぐらいだよな。あいつは配球をちゃんと組み立てて攻めてくるからね。あいつが投げるときは打席に立つのも楽しみだよ。だけど、あとは話をしたってしようがないと思う選手がほとんどだから ▼引退するとき、みんな、いろんな言い方をするだろう。「技術はあるのに体がついていかなくなりました」とか、「完璧なスイングをしてスタンドに入ったと思ったのに、フェンス直前でボールがお辞儀をした。その時、自分はもう限界にきたと感じました」とか。でも、それって口実なんだよ。やめるためには、自分と周囲を納得させる何かの口実が必要だからね ▼時代は大きく変わったんだよ。昔のように、日本に来るのはアメリカの選手だけじゃなくなってるんだからね。外国人枠という“特別枠”みたいな考え方はもうやめるべきでしょう ▼コミッショナーというのは野球界から何がしかのお金をもらっているわけだから、野球界のことを考えて何がしかのことをやってくれてもいいと思うよ。別に一年、二年でやってくれとは言わない。十年かかってもいいから、今から手をつけて欲しいんだよ。これからは毎年、毎年、いろんな問題が出てくるわけだから。選手の言い分だけを全て認めろと言っているんじゃなく、問題が起きたらすぐに対処できるようにして欲しいと言ってるんだよ、俺は。