第22話

立浪さんのグラブ



 “制空圏”---------。

 武道の達人は、自分自身の“制空圏”を持っている。
 制空圏とは即ち“間合い”。この間合いに入れば100%攻撃は当たる、 この間合いなら相手の攻撃は100%受けられる、 それが武術家の“制空圏”である。

 たとえば井端や荒木の守備範囲はめちゃめちゃ広いが、 センター方向に抜けそうな難しい打球を、 彼らは“捕る場合がある”というだけで、 「100%捕る」あるいは「100%捕れない」というわけではない。
 即ち井端・荒木は“名手”ではあるが、“達人”ではない。

 達人は、「捕れる」「捕れない」がはっきりしている。
 達人が動いたときは「100%捕れる」ときであり、 達人が動かないときは「100%捕れない」ときだ。 どうせ動いても捕れないのだから、あえて動かないのだ。

 現役では、立浪和義の守備が“達人”と言われている。

立浪の制空圏

↑立浪の制空圏(カラー部分)



ブラウン vs 落合

ブラウンvs落合

2回戦


 “事件”は3回、広島の攻撃、先頭打者の緒方のときに起こった!
 緒方の打球がライナーで三遊間へ飛び、立浪の頭上を越えようとしたとき、

 立浪が素早く反応しジャンプ!

 捕った!?

 …かに一瞬見えたが、打球はレフト前へ抜けていった。

  「バカな!立浪が1ミリでも動いたということは、それは“捕れる打球”だったということだ! 達人の制空圏に入っていたはずの打球が…何故?!」

 スローVTRが流れる。


立浪の中の人・1

立浪の中の人・2



落合親分 「………」

落合親分 「何、今の?」



なんと、昨日の試合から3回連続でライナーをジャンピング・キャッチしたおかげで、 普段ボールがなかなか入ることのない立浪のグラブ がその衝撃に耐え切れず、 ネットが破れてしまったのだ!!



落合親分 「あいつのグラブは 金魚すくい か…!」

立浪 「ああ、ビックリした。 グラブって、使ってないと弱くなるもんなんですね」



 試合は、そんな立浪がチーム初タイムリーを放てば、
 「立浪さんでもあんなジャンピングキャッチをするんだから…」
 とルーキー藤井がスーパー・ジャンピングキャッチでピンチを救い、 打っては
 「立浪サンデモタイムリーヲ打ッタンダカラ…」
 と絶不調のアレックスに逆転タイムリーが飛び出し、 しまいには
 「立浪君でもあれだけ動いてるんだから…」
 と38歳・デニー友利が1死満塁のピンチを0点に抑え、 思わぬ“立浪効果”で“ぶっちぎ竜”が今季の初勝利をモノにした!


勝利!

×広2−3中○

 それにしても不思議なのは、立浪のグラブだ。
 いかに今までそうそうグラブにボールの入る機会が無かったとはいえ、 プロ選手の使うグラブのネットが、そう簡単に破れるものだろうか?
 立浪の奇跡の守備といい、謎が謎を呼びつつ、とにもかくにも 2006年伝説のシーズンが開幕した!!




内職にはげむ森野

「森野くん…立浪さんのロッカーで何をしてるの…?」




ぶっちぎ竜