- 第二の書 -
天下の悪妻『亭主しつけ法』
1987.11.1刊/小学館/落合信子・著
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落合のロッテ→中日への移籍が決定した時期から、
およそ1年間にわたり『女性セブン』に連載された信子夫人のエッセイ。
短期連載の予定だったが、連載途中に夫人の妊娠が判明。
急遽「第一子が生まれるまで」と連載期間の延長が決定し、
中日移籍からフッ君が生まれるまでの「二人の生活」が描かれている。
ちなみに当時、落合信者だった清原(当時西武)は、
このエッセイを読むためだけに『女性セブン』を愛読していたという。
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注:「第二の書」では落合親分の一人称が“オレ”から“オラ”に変化してる。
東北人・落合のなまりを強調しバカにしたような印象を受ける人がいるかも知れないが、
私(sato23)も東北の出であるが、私の場合は一人称は“オレ”“オラ”“オイ”
と3パタンあり、特に使い分けは意識せず、普通に使っている。
方言にスタンダードなど無く、“オレ”も“オラ”もどっちも使うのである。
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我々は、落合という新しい親分を迎え、その指導法、言動の一つ一つに、
目からうろこが落ちる思いだった。
そして、その考え方が決して思いつきやウケ狙いでないことを、
落合親分の過去に書き記した数々の書を読み、確認した。
始めは疑っていたマスコミ・世間も、リーグ優勝という成果を目の当たりにし、
親分をあらわす表現は、
“オレ流・落合”から、“有言実行の落合”へといつしか変っていった。
言葉はエネルギーを持つ。
そういう意味では、親分は“言葉のマジシャン”とも言えるだろう。
本テキストでは落合親分の「言葉」について検証するのだが、
それは徐々に明らかにして行くとして、今の時点ではそのことは頭の隅に留めるだけでいい。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
という事で、まず最初は落合親分の
マヌケ話
から始めよう。
落合夫婦、二度目の海外旅行のときの出来事である。
(1) 赤いペラペラ事件
(信子&博満、ハワイ旅行に出かける)
去年ハワイにきたときはツアーですから、添乗員の人がみんなのチケットをあずかってくれたんですが、
今回はファーストクラスですから、じぶんで持ってなきゃいけないんですよね。
ところが、私も落合もどれがチケットだか知らなかったんです。
「ね〜ヒロ、この荷物の引き換え券のついた
赤いぺラペラはいるの?」
「あのな、おっ母、外国にきたらパスポートと金は絶対手放すんじゃね〜ぞ。
だけど、荷物はもうオラたち持ってるんだから、
引き換え券なんかいらね〜だよ。そんなのいつまでも後生大事に持っとったら、
笑われるぞ」
「あ、そう。ヒロがいらないっていうならいらないね。じゃあ捨てちゃおう」
“落合がわかったふうなことをいうときは信じちゃいけない”
という鉄則を、なんで私は忘れてしまったんだろうと後悔しました。
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てっ、鉄則!?
そんな鉄則があるんですか!?
…選手たちはみんな、親分の「分かったふうなこと」にウンウン頷き、
「さすが親分は分かってらっしゃる!」
「親分の言うことだから、間違いはない!」
と信じ、疑わず、ついて行ってるんですが…。
(つづき)
帰国の日、送りにきてくれた旅行会社の人が、
「落合さん、チケット出してください」というんですが、
「えっ、そんなの持ってね〜」と落合は平然と答えるんです。
「おかしいな、渡されてなければ、ハワイまでこれないはずなんだけど。
ま、航空会社の手落ちかも知れないから、聞いてきます」
「ああ、そりゃきっと手落ちだわ」
「おっ母、心配すんでね〜ぞ。オラ、帰りの席の番号まで知ってるだからな。え〜と、
8のAとCだ」
といいながら、落合も心配になってきたのか、私の手をしっかり握ってるんです。
え〜い、こうなりゃ私の出番です。旅行会社の人にききました。
「ねえ、チケットってどんなの? え〜? ファーストクラスは、
赤いペラペラ? 赤い…」
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…優勝旅行はオーストラリアだそうだが、無事に帰国できるだろうか。>親分
自分でチケットを捨てときながら、
「持ってない」「旅行会社の手落ち」とシラを切るあたりがさすが球界初の1億円プレーヤー。
もしこの旅行会社の社員が森野なら、
「そんな答えを聞きたいんじゃないっ!」
と言って、バットの1本も投げつけたであろう事は想像に難くない。
かつて落合親分は
「世間の“常識”は球界の非常識、球界の“常識”は世間では非常識」
と言い放ち、一般常識の通じないプロ野球界をバッサリと斬り捨てた。
そこで我々はふと考える。
「世間の“常識”は落合親分の…?」
(2) バレンタイン事件
(中日に入団してからバレンタインには段ボール4箱のチョコをもらうようになった博満だが…)
落合と付き合いはじめたころのこと。
「落合クン、あしたはバレンタインデーだって知ってる?」
「そのバレン何とかってなんだ?」
「好きな人にチョコレートをプレゼントする日なのよ」
「ほう、そんな日があっただか」
その翌日の夕方、母とふたりで家に帰ってきました。すると、
玄関にバカでかいチョコレートが置いてあったんです。
留守の間にヒロが来て、チョコレートを置いていったんです!
普通は知ってるでしょ、“女から男へ贈る”ってことくらいは。
ところがヒロはそれも知らなかったんですよね。
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…なんともかわいらしいエピソードではある。
おそらく秋田にはバレンタインの風習はなかったのだろう。
秋田ではお菓子と言えばモロコシなのだ。
チョコレートなどというハイカラなものは、秋田には、ない。
(3) 赤いアザ事件
(なかなか子供の出来ない落合夫婦、いろいろ試す)
落合もいろいろと野球選手にきいたようなんです。ある選手がこんなことをいいました。
「あのな、オチ。うちもなかなか出来なかったが、とっておきの方法を教えてやるよ。
嫁さんと後背位でセックスするだろ。終わった瞬間に思いっきり嫁さんのお尻をたたくんだ。
そうすると奥さんがびっくりするだろ。ウチの女房は泣き出したが、
そのはずみで出来たんだぞ。これ本当、やってみろ」
それを私に実行したんですよ。
「なにすんのよ!」
できたのは赤ちゃんではなく、
お尻の大きな赤いアザでした。
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ああっ。プロ野球選手なんてバカばっかりだ!!
「世間の“常識”は球界の非常識」。
まずその前に、親分は“世間の常識”についてどのように捉えているか、
疑ってみる必要がありそうだ。
(4) 信子夫人、ご懐妊!
(そしてついに2人の間に…)
「奥さん、できてますよ、赤ちゃん!」
おなかに装置を当てての検査なんですが、テレビ画面に動いてるものが映りました。
「先生、ウソでしょ。ぼうふらかミミズじゃないの?」
「そんなわけないでしょ。落合さんもごらんなさい。ほら、おめでたですよ。
妊娠3ヶ月ぐらいですね。ご主人、心当たりは?」
ビックリ顔で腕組みしてテレビをのぞき込んでいた落合が、突然叫びました。
「朝だ!」
先生と私と姉がキョトンとしていると、
「先生、オラ、心当たりあるだ。オラたちはいつも夜しかしてなかったけど、
“もう子供はできねえんだな”とやけくそで、
1回だけ、朝やっただよ。なぁ、おっ母、朝したろ。
うん、朝だ!」
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どうにも答え辛いことを詰問する落合親分↑
(5) 練習は裏切らない
さて、
「上手くなりたかったら、人の3倍練習をするだ」
「練習は裏切らないだ、絶対に」
「オラが現役の頃は、誰よりも練習をやっただ。だから三冠王になれただ」
というのが落合親分の口癖だ。
(だんだん口調が変って…)
だから一家の子分衆も、「落合親分のようになりたい!」と思い、
一所懸命練習する。
努力すれば必ず報われる。練習は裏切らない。そう信じて。
(待望のフックン誕生!喜ぶ博満)
最近、落合は心変りをしたとよくいいます。
以前は、いつ野球をやめてもいいと思っていたが、
自分の子供に野球をしている姿を見せたくなったというのです。
「でもヒロ、今年34才でしょ、子供が野球を見てパパのプレーの素晴らしさがわかるには
10年くらいかかるんじゃない」
「オラ、45才でもできるだ。大リーグではピート・ローズなど40才を超えて活躍している男がゴロゴロいるだ」
「でも日本では、40才になる前に引退するのが普通でしょ」
「オラは子供ンときからあまり練習してないから、油がきれてねェだ。
50才でもやれるんでないの」
そういえば、わたしの目の前では落合はあまり練習しないようね。
家でもゴロゴロして、ビデオの映画ばっかり見て。
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お、親分!?
「オレが現役の頃は、家に帰ってから3倍練習したもんだ」
は何処へ!???
さらに信子夫人の仰天告白は、『あとがき』にもあった。
(『あとがき』より)
でも皆さん、私たちの家庭ほど楽しく幸せな家庭はないと思っています。
亭主に三冠王をとらせたと言っても、私がしごくはずがありません。
落合は家ではバットを振るどころか握ろうともせず、
暇さえあればビデオの映画を見ています。
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練習しろォ!!>落合
…ハッ!
私としたことが、つい親分を呼び捨てに…。面目ない。
えーと、ま、その、何だ。落合親分は“天才打者”であったわけで、
才能には
「努力しないことで発揮できるもの」と「努力して伸びるもの」
がある。
落合は一家の元締めとして、後者の方法を、配下の者に徹底しているのであろう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
さて、ここまで落合親分の“言葉”について、
- 「世間の“常識”は球界の非常識」
- 「オレは現役時代、誰よりも練習した」
の二つについて検証をしてきた訳だが、このままではあまりに親分の
立つ瀬がないので、
最後にちょっといい話を。
ここで検証する言葉は、落合親分自身の言葉ではなく、
世間一般や一部OB解説者が言う、
「落合は自分勝手でわがまま」
「人づきあいが出来ない」という中傷の“言の葉”についてである。
(6) 花火大会
(信子、花火大会を企画)
昼間のうちに、近所の奥様がたに、子供さんたちといっしょに落合に花火をやらせてほしいとお願いしておきました。
さて、ナイターを終えて帰ってきたヒロに、急いでごはんを食べさせ、
「ホラ、近所の子供たちが待ってるから誘ってきなよ」
と、買っておいた花火袋をドンと持たせたのです。
「オラ、恥ずかしくてイヤだ」
と、家を出るまではダダをこねていたヒロも、近所の家の前に行くと、
子供に戻ったように、
「こんばんわ!落合です!花火しませんか?」
と、ドアの前で大声を出して誘いはじめました。
子供さんと一緒にご主人たちも来てくださって、アッというまに広場には
二十数人もの人。
「はじめまして、どうぞよろしく」
なんて、ご主人たちは初対面の方々ばかり。奥様同士は、昼間、よく話し合っているのに、
主人たちは挨拶もしない間柄だったみたい。
景気のいい音のする花火をポンポン打ち上げて、あとは線香花火ばかり残りました。
ご近所の方々と、線香花火の元気のなさを笑いながら見つめていると、
みんなの心がジーンと通い合うような、いい気持ちになったのです。
別れ際、
「落合さん、今年も三冠王、頼みますよ」
とみなさんから激励されて、それからヒロはガンガン打ち出したのでした。
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ううっ、ええ話やないけ。
親分は人見知りする性格ではあるが、本当にあたたかい、気の優しい人間だ。
そして、そんな気の弱い親分を引っ張る、気の強い信子夫人。
この2人のコンビだからこそ“三冠・落合”がいて、
“優勝監督・落合”が生まれたのだ。
と、きれいにまとめようとしたが、ヘタにテーマを絞ろうとしたため
「オッ、これは書いとこう」と思っていた
落合・夜の銀座で遊び過ぎ、借金1000万
のエピソードを紹介するのを忘れてしまった。
いかんいかん。では、落合の“夜のバットで借金1000万”と“夜の打席は淡白で弱い”
エピソードはまた別の機会に。
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