1985.12.10刊/海越出版社/宇野勝著 |
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さて、落ち着いたところでそろそろ「野球の話」をしよう。 | |||||
本書を読むと、宇野が
“合同キャンプ否定論者”
である事が見てとれる。 こういう意見は「練習!練習!とにかく練習だ!」のプロ野球界では珍しい意見だ。 ご意見、拝聴しよう。
これこそ落合親分が、87年に名古屋一家に移籍してから、 「何でベテランも若手も一緒のメニューでやらなきゃいけないの?」 「言われなくても俺はちゃんとやるよ」 「練習なんて人の見てるとこでやるもんじゃない」 と言い続け、そのたびに新聞に面白おかしく 「オレ流・落合、出た!練習嫌い!」 「キャンプ拒否、またわがまま!」 「公然と首脳陣批判!!」 と見出しを付けられ、マスコミにさんざん叩かれていた“キャンプ否定論”ではないか! この書が出たのは85年オフ。 つまり宇野は、 落合が来る以前から既に、 「キャンプなんて必要ない(若手だけで十分)」 「ベテランも若手も同じ練習をするのはおかしい」 との持論を展開していた。 しかし、宇野はマスコミには叩かれなかった。 宇野が言うと記事にすらならない。だって、そりゃそうだろう。 宇野が言ってることは至極まともな意見であり、 プロが練習方法について自分の意見を述べることは、 「わがまま」でも「首脳陣批判」でもない。当たり前のことだ。 おかしいのは宇野が叩かれない事じゃない。落合が叩かれる事が、「異常」なのである。 ![]() 宇野は「プロは結果を見せるものであり、練習を見せるものではない」という。 そして、「プロ野球はサーカスである」というのだ。 (えっ?)
現実に、読売は「勝ち負け」という結果だけを目指し、 見苦しい補強を繰り返し、 “強さの独占”と引き換えに、ファンから熱狂を奪ってしまった (読売は補強の結果、確かに強くなった。 だが、記録よりも記憶に残る男・長嶋茂雄が読売ファンに残したものは、 「こんな卑怯なことをして、本当によかったんだろうか?」 という後ろめたい“記憶”だけだった)。 そして中日も。 結果はご存知の通り。読売戦のテレビ中継の視聴率は、 読売の勝ち負けに関係なく下がる一方、 ナゴヤドームには、 中日の勝ち負けに関係なく閑古鳥が鳴いている。 プロ野球は、「しぼんでしまった」のである。
あ、あの宇野が、あの宇野がこんな立派なことを…。 ![]() たとえは少しヘンだが、 言いたいことはビンビン伝わってくる。 プロ野球はサーカスであり、 お客さんは球場に“芸”を見に来るのだ。 これもまた、落合親分の 「一芸に秀でよ」 というポリシーにつながるだろう。 「野球に対する考え方」「取り組み方」という点で、 落合親分と宇野はよく似ている。 しかし、“プレーヤー”としてみたとき、同じ右のスラッガー、 同じ神主打法 (宇野は落合が移籍した87年からフォーム改造) でありながら、 この二人は決して“似た者同士”とは言えなかった。 落合が 「ホームランの打てるアベレージヒッター」 「ダメなときはダメだが、ここ一番のチャンスに強い」 というイメージであるのに対し、 宇野は 「期待してないときの一発」 「ダメなのかいいのか全く分からない」 「アベレージの期待できないホームランバッター」 という印象だ。 考え方はよく似ているのに、打者としての性質が全く異なる二人。 この違いは何処から来るのだろうか?
ところで、落合親分は現役時代、スコアラーの持ってきた敵の資料を、 殆ど「読まなかった」そうだ。 何故か? 「よそのチーム、 よそのバッター相手にどうだったかなんて参考にならない。 オレは打席に立ったときに、 そいつとの前の対戦を頭の中でリプレイ する。 あのときはこの球を打った。あのときはこうして討ち取られた。 そして今、マウンドで投げてる球を見て、 前のときより調子が上がってるか下がってるかを判断する。 今日の自分の調子がいいか悪いかもあるから、それを踏まえて、 (バッターボックスの中で)攻略法を考えるんだ」 どうやら落合の天才的バッティングの秘密は、その超人的な “記憶力” にあるようだ。いわば落合専用、 「一人スコアラー」 が脳の中にいるのである。 さて、対する宇野。 宇野の記憶力を語る上で、こんなエピソードがある。
この話を読んだとき、私は 「あれ?」 と思った。
「あれ? この話、前に何処かで…。」
![]() のぞきのエピソードが出たのは本書の169ページ、 松本先輩の奇人ぶりを書いたのが165ページ。 この間、わずか4ページ。 ついさっき松本先輩の奇人ぶりを表現するために書いた話を、 その4ページ後には(章変わりしてるので)すっかり忘れ、 「のぞきをした挙句に、女を口説きに行く人までいましたよ。 名前は言えませんが」とばかりに 「匿名暴露話」 としてこの 犯罪者まがいのエピソード を公開してしまったのだ。(!)
最初の話だけ聞いてたら
「ちょっと女好きの男の武勇伝」
で済む話だが、後の話とあわせて読むと、
「のぞきでチャンスを伺い、部屋に進入した変態ストーカー男」
である。 --- このことから分かるように、宇野には記憶力が 「全くない、あるいは極めて希薄」 と言える。
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