その瞬間、鈴木フミヒロは号泣した。
公式戦で負けたときも、一度も涙を見せたことのない鈴木が、人前もはばからず泣いた。
「あのとき、ああしていれば」
「このとき、こうしていれば」
「自分にもう少し力があれば!」
辛いだろう。
悔しいだろう。
どうして届かなかったのか。
どうして勝てなかったのか。
勝つために、チームは何をすべきだったか。
勝つために、自分は何をすべきだったか。
「負けるって事は、こんなにも悔しい事なんだ」
そんな
ペナント中は思いもしなかった感情
が、とめどない涙となって形にあらわれる。
☆ ☆ ☆ ☆
勝負の厳しさ。2軍でくすぶってた頃や、
1軍でも試合には出場出来ず、
ただベンチから声を張り上げるだけだった自分には感じることのなかった思い。
自分ではない誰かの期待を一身に背負い、勝つことの難しさ、勝てないことの悔しさ、辛さ。
「僕はバッティング興味ないんで。えへへ☆」
なんて言っていては、永遠に勝者になどなれはしないのだ。
☆ ☆ ☆ ☆
鈴木がシドニーで流した涙は、
己れの力不足
を痛感させ、叱咤し、
明日からの自分を成長させる糧となるだろう。
1本のヒットには、それにつながる何千本もの素振りがある。
1個の三振には、それにつながる何百打席もの研究がある。
どうして負けたのか。
自分に何が足りなかったのか。
シドニーで受けた悔しさを胸に、鈴木はまた一歩、選手として成長する。
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