今週の『将太の寿司』セレクト

  本テキストは、週刊少年マガジンで大人気連載された『将太の寿司・全国大会編』(寺沢大介)の、 98年11月4日号〜99年3月10日号に掲載された作品についての読書感想文です。 『将太の寿司』は、一見ただの料理漫画に見えますが、 意外にも“腐敗しきった日本プロ野球界への提言漫画”として 「20世紀最後にして最高の野球漫画」と呼ぶにふさわしい名作です。 なお、あくまで読書感想文であるので、原作者の意図を誤って解釈してる部分がもしかしたらあるかも知れません。
11月4日(水) 今週の『将太の寿司』

カネにものを言わせて!

 少年マガジンに『将太の寿司』という料理勝負漫画がある。 今回の勝負は佐治さんvs笹寿司の刺客の甘エビ勝負だ。 笹寿司は勝負のために450万円もつぎこんで水槽を準備、 将太は思わず 「またか…!また金にものを言わせて卑怯な事をするつもりか!!」 と怒りをあらわにするのだが、 水槽くらいで卑怯呼ばわりするのもどうだろう?
 だがしかし、本日宮田コーチが読売に入団したというニュースを聞き、 「またか…!また金にものを言わせて卑怯な事をするつもりか!!」 と誰もが思ったように、この漫画は 「普段卑怯な事ばかりしていると、何をやっても卑怯者呼ばわりされますよ」 という事を読者の小学生に伝え、 笹寿司のようになってはいけませんよ、 読売のようになってはいけませんよ、 と教える道徳の教科書のような存在、それが『将太の寿司』なのだ。


11月11日(水) 今週の『将太の寿司』

貧乏人がッ!!

 今週の『将太の寿司』は、 甘エビ対決に450万円もの大金を投資した笹寿司が 佐治さんに敗れるという波乱で決着した。 夜、Officialチャットに入ると、「400万だ」「いや430万だ」 といった議論が沸騰している。
 「ははあ、早速ここも『将太の寿司』の話題で持ちきりですな」
 と思ったらどうも違うようで、聞くと広島カープの選手の年棒の話だという。 しかしまさか、広島球団がいかに財政難とはいえプロ野球選手の年俸がたったの400万という事などあるのだろうか? 甘エビだって450万なのだ。甘エビ以下とは、いくらなんでも広島の選手に失礼ではないのか。
 そういうわけで、日刊スポーツ発行の選手名鑑(98年度版)から、 セリーグの選手で本当に450万以下の年俸のプロ野球選手がいるのかどうか、 調べてみた。

横浜中日読売ヤク広島阪神
13

 …広島13人。甘エビには大変失礼をしてしまった。


11月18日(水) 今週の『将太の寿司』

この店の安全管理はどうなってるんだ

 今週の『将太の寿司』は、将太の父親の経営する寿司屋の倉庫に、 毎日注文してもいない魚が何者かによって届けられているという事件から始まる。 その事実を知ったとき、 「もうかってる分にゃあ誰も文句はないんだしよ」 と言い放つ無神経な彼らに、笹寿司(=読売)を非難する資格はない。 ここにこの作品の隠されたテーマである 「アンチ読売諸君、あなた達もまた読売化してはいないか?」 という作者からのメッセージが見え隠れする。
 将太は普段から事あるごとに 「笹寿司め!汚い真似を!」 というその一方で、注文した覚えのない魚については 「道理で魚がいつもより多いわけだ」 「ま、もうかってるんだからいいか」 と、自分の利益になる事については見てみぬふりを決め込んでいるのだ。
 将太はきれい事を並べて笹寿司を非難する前に、 自分はどうなのかを見つめ直すべきだ。 そして、 「ガルベスを復帰させるなんて非常識だぞ読売!」 と叫ぶ中日ファンも、寛大な心でガル公を許してやるべきだと思うのだ。 いいじゃないか、前科の一つや二つ。


11月25日(水) 今週の『将太の寿司』

ガッツガッツは餓鬼の形容詞

 今週も『将太の寿司』では笹寿司(=読売)が絶好調だ。 将太クンの同窓会の席上に突如あらわれ、 「貧乏人どもが、がん首揃えていっぱいに集まりやがったな」 と言い放つ笹寿司の息子・笹木。 「どうせお前ら普段ろくなもの食ってねぇんだろ?オレのおごりだ。遠慮なく食えよ」 「貧乏人が見たことねえご馳走に目を回して、 ガツガツと餓鬼畜生みたいに喰らうのを見せてもらうぜ!ダハハハハッ!」
 将太たちは「だ…誰がお前なんかにおごられるか!」 「金ならきっちりと払ってやらあ!」 と威勢のいいセリフを吐くのだが、 「ほーお、そうか。じゃ、20万円も払ってもらおうか」 と言われると、ついぞ黙ってしまうのだった。ああ、貧乏はつらい。

 せっかく笹寿司さんがおごってくれてるって言ってるのに、 何故素直に「ありがとう」の言葉が言えないのだ将太。 勝負は勝つためにある。 強敵は倒すためにある。 そして、プライドは捨てるためにあるのだ。 俺ならたとえ相手が読売ファンでも、「おごる」と言われたらホイホイついて行くぞ。 心に棚を作れ、将太。
 「それはそれ、これはこれ」


12月2日(水) 今週の『将太の寿司』

不正がバレたときは、亀寿司さん頼むよ!

 今週の『将太の寿司』では、将太の仲間である神亀寿司のおじさんが、 ライバルである笹寿司(=読売)の厨房に忍びこむことから始まる。 この住居不法侵入はあっけなく笹寿司に見つかり、 神亀寿司のおじさんはボコボコにされ将太の元に送り返される。 しかし、神亀寿司のおじさんは笹寿司の厨房から料理の秘密である1本の針を盗んでいた。 将太はその事実を知ると、何とおじさんを責めるどころか、 開き直り「神亀寿司さんのためにも!きっとこの針の謎を解いて見せる!」 と豪語するのである。

 今、ダイエーホークスが試合でスパイ行為を働いたとして問題になっているが、 将太のこのスパイ行為も日本寿司協会に知れたら大問題となるだろう。 それどころか、将太は卑劣にも「神亀寿司さんのために」と、 もしコトがバレても神亀寿司のせいになるよう、 大義名分をたて逃げ道を作っているのだ。卑怯だぞ!将太!

 今回のお話で作者が言わんとした事は即ち、 「いくらイヤな敵を倒すためとはいえ、 それを大義名分にして自分も卑怯な真似をしてはいけませんよ」 という事だ。 笹寿司(=読売)を憎むあまり、 いつしか自らも悪の色(=オレンジ)に染まる将太。 先週の20万は踏み倒したのか。


12月9日(水) 今週の『将太の寿司』

カネで何でも出来ると思ってる少年

 もともと、ガキという生き物は愛玩動物という以外全く世の中の役に立たない犬猫同様の存在であるが、 今週の『将太の寿司』でのサトシ君は非道かった。
 笹寿司(=読売)vs「大阪の坂田」の料理対決を前に、大阪からチビッコ応援団がやってくる。 その中の一人、サトシ君はバスから降りるなり「こち亀」の両さんのごとく気持ちよくトラックに跳ねられ、 5メートル空を飛んだ。おかげで坂田は勝負前だというのに、貧血で歩行もままならないほど大量の血を輸血で抜き取られ、 それどころか病院のベッドに横たわる糞ガキ・サトシ君は、坂田の勝利を祈願して毎日神社にお賽銭をあげていた事を激白、 「お前の今までの勝利は実力ではなく、俺の賽銭のおかげだ」と言わんばかりに恩を着せるのである。
 「神さんて、ほんま気前がいいなあ。たった毎日10円で兄ちゃんをここまで勝たしてくれんねんもん」
 と言い放つサトシ君だが、一体、坂田に恩を着せるためとはいえここまで信心深かったはずなのに、 どうして神様はサトシ君を交通事故にあわせ、坂田に貧血という試練を与えたのだろうか?

 答えは分かり切ってる。将太が、笹寿司(=読売)の料理の秘密を卑怯卑劣な手段で盗み出し、 外野スタンドから球種を盗みバッターに伝えるアルバイト学生の如く坂田にその秘密をリークしたからだ。
 神様は何でもお見通し。卑怯なことをすれば、それは必ず自分に返ってくるという事だ。


12月22日(火) 今週の『将太の寿司』

しかし皮と身はパサパサだ

波平激怒!

 「あのカツオは死んじゃいねえよ。ただ眠っているだけさ」
 と断言する笹寿司(=読売)の言葉通り、 今週の『将太の寿司』では死んだかと思っていたカツオを、 人に鬼と書いてカイ(漢字出ず)が生き返らせた。 それを見た将太は、 「そうか…麻酔だ!あの針で魚に麻酔をかけていたんだ!」 ととんでもない情報操作を展開する。

 非道い話だ。いくら魚が麻酔を受けたとしても、 一度陸にあがった魚が、水中酸素もないのに5日間も生きているわけがないではないか。 眠っているときだって動物は呼吸しているのだ。
 将太はスパイまでして手に入れた「針の秘密」が 結局分からなかった事を隠すため、 「あの針は麻酔だった」 などと夕刊フジ級の虚偽をデッチ上げ、 己れの保身のために場を無意味に混乱させたのだ。

 将太くらいの料理人なら、あのカツオが今まで生け簀で保護され、 調理直前に頭の急所を叩かれ気絶させられ、 あたかもたった今まで眠っていたように見せかける笹寿司のトリックだというくらい すぐに見破ったはずだ。それを、 「カイは地上最強の寿司職人だ」と坂田にプレッシャーを与え、 強敵を一人でも叩きつぶしておこうとは! ああ!そこまでして勝ちたいのか、将太!

 2年前、試合もないのに読売の選手が東京ドームに集結した事があった。 バックスクリーンの大型モニタでは広島−中日戦が実況中継され、 中日が負ければ読売優勝という場面だ。
 ベンチにふんぞり返り、 ニヤニヤニヤニヤニヤニヤと舌なめずりしながらモニタを眺める澱んだ読売選手の目は、 笹寿司vs坂田の対決を眺める将太のそれと同じである。 よその勝負に口を出してる暇があったら、自分の腕を磨くことだ!将太も!読売も!


1月4日(月) 今週の『将太の寿司』

人は安くていいものを求めるくせに、自分が安いと言われるといい悪いに関わらず怒る

 缶コーヒー1本よりも安い100円寿司屋の安職人である坂田は、 この笹寿司(=読売)の挑発に 「お前には絶対負けへんで!」と怒りをあらわにする。
 「人は本当の事を言われると怒る」というが、 100円寿司と言われて怒る坂田の態度は、 自分の仕事に誇りを持っていない証拠である。 坂田は、怒りをぶつける相手を間違ってる。 ただ純粋に、お客さんの喜ぶ顔が見たくて寿司を握っていたあの頃の目の輝きを忘れないで。
 坂田よ、100円寿司を恥じるな。むしろ胸を張れ。 全ての客は「安くてうまい」ものを求めているのだ。 そして、読者の声は一つになる。
 「さっさとサインしろ、南淵」


1月13日(水) 今週の『将太の寿司』

 この豊かな日本において、 貧乏・貧血・そして報われない努力と、今時珍しい花登筺の世界を満喫する男・坂田。 フラフラの体で精一杯戦い、 「みんなの応援に応えることがでけへんかった…オレの力の無いのが原因や!」 と自分を責めるその姿は、まるで貧乏・ケガ人・報われない努力の代名詞、広島カープ選手のようではないか。
 坂田は最初の2戦は15点満点×2を叩き出したが、 試合が進むにつれ、いつしか150対45と大差をつけられてしまう。 ああ、まさに最初だけの広島カープ!!
 負けを確信した坂田はそれでも「切島・人の鬼と書いてカイの全てを…このオレが引き出したる!」 と次に笹寿司(=読売)と対戦する将太のために、自分を犠牲にする決意をするのだ。 将太に利用されてるとも知らずに。

ブヒャヒャヒャヒャ!

坂田(=広島)をあざ笑う笹寿司(=読売)

1月20日(水) 今週の『将太の寿司』

クズと言われても女性や子供のために寿司職人を続けるのだ、と諭すカイ。

 225対53と圧倒的大差で勝利した笹寿司(=読売)の刺客・人に鬼と書いてカイ。 「オレは寿司屋を辞める!」と自分の包丁を差し出す負け犬・坂田に、 カイは「クズの包丁など欲しくはない」と、 マナ板にぶつけただけで壊れてしまう坂田の安物の包丁をヘシ折り、 「寿司屋をやめることもない。 女子供の…クズにふさわしいクズの寿司を作り続けろ」 と言い放つのだった。

 いいヤツじゃないいか。人に鬼と書いてカイ。

 何一つ卑怯な手をつかわず実力で勝利をおさめ、 自らの失言で勝手にピンチにたった坂田に助け船を出し、 坂田の板前生命を救ったカイ。
 問題は、このカイのやさしい心遣いに、
 「許さない!おまえは絶対許さないぞ!!」
 とあらぬイチャモンをつける将太の態度だ。 正々堂々と勝負を行い、 坂田に「寿司屋を続けろ」とまで言ってくれたカイに、
 「許さないぞ!」
 とは何事であるか。カイの心の深いところにある優しさが分からないようでは、 「人の心を思いやる料理」なんて出来はしないぞ、将太。

 普段、 「今中さんたったの2勝ですか単価が高くてうらやましいですな」とか 「山崎さん今日も勝敗に関係ない場面でのホームランで打点稼ぎですか偉いもんですな」 などと言ってるシャオ会の皆さんと付き合ってると、 憎まれ口の陰に隠れているカイのやさしさが痛いほど伝わってくる。


2月3日(水) 今週の『将太の寿司』

 プロ野球中継を見ていると、 「プレーが終わってから」 何だかんだ言い出す解説者というのがいる。
 アナウンサーに
 「ここは送りますか?強行しますか?」
 と聞かれ、
 「う〜ん、送ってもいいし、ヒッティングでもいい場面ですね」
 「おっと、久慈は送りバントです」
 「やはり送りバントでしたか。この方が確実ですからね」
 とか言い出す解説者だ。近藤貞夫さんや平松政次さん、 関根潤三さんもそんなイメージがある。

 『将太の寿司』。クセ者揃いの鳳寿司の中で、 もっとも食えない男が親方征五郎だ。 今週は寿司屋の客としてきた糞ガキが、 将太の握ったエビを残すことから始まる。
 「エビが大好きだと言ったあの子が…どうして僕の握ったエビを最後まで食べなかったんだ…」
 と思い悩む将太。そこへあらわれた征五郎は、
 「ははあ、そういう事か」
 とさも全ての謎が解けたような顔をし、将太に
 「そのお子さんを満足させる寿司を作ってみよ」
 と自分の考えは一切明かさず、キレ者の将太に無理難題を押しつけるのだ。
 結局、将太は子供の好きなエビフライのエビで寿司を握るといった、 江戸前寿司職人のプライドのかけらもない邪道寿司を作り子供の満足を得るのだが、 そのときの親方の言いぐさがこうだ。

じじいはすぐに見栄を張る

 「エビを残したお客様が子供と聞いて、儂はすぐにピンを来た」
 ウソをつけッ!征五郎!!適当なヨタ飛ばしてんじゃねぇっ!知ってたなら最初から教えてやれ!
 エビフライの寿司。この寿司屋は子供が喜ぶためなら、 ハンバーグの寿司でもチョコレートの寿司でも出すだろう。 たった一つ言えることは、貧乏人の糞ガキに高級寿司屋の寿司を喰わせることが、 いかに金の無駄かという事だ。

2月10日(水) 今週の『将太の寿司』

泣くほどイヤか。他人からのプレゼントが。

 今週はバカ女の登場だ。
 先週のエビフライの寿司ですっかり邪道寿司に染まった将太は、 (女の子のいる)ブラジル料理店に出入りし研究を重ねる。 この店の初老の女主人は、かつて移民として玉木重(広)の出身地・ブラジルに渡った事があるのだが、 辛く厳しい開拓の日々の中、 自分の誕生日にプレゼントを渡してくれた男に向かって放った言葉が、これである。
 「その汚い竹包みが、あたしの成人のお祝い…?」

 人の好意を何だと思っているのか、このクソ女。 ブラジルの開拓地でシャネルの香水やプラダのバッグでも貰えると思いこんでいたのか。 実に気分の悪い女だ。
 しかし、包みの中身が食べ物だと知るとクソ女の態度は一変、 「おいしい、おいしいわ」とたった今男の気持ちを踏みにじる言葉を吐いたその口で、 パクパクと寿司を食い始めるのである。

 どうにも腹に据えかねるバカ女だが、それから数十年のち、 ブラジル料理店のオーナーとなりここで将太にであうわけだ。
 「もう一度、もう一度だけ、あのサバのお寿司が食べてみたい」
 と年をとっても相変わらず食い意地の張った女オーナーは、 将太に無理難題を注文する。将太はいつものように二つ返事で引き受けるのだが、 女オーナーは味の記憶としてとんでもない事を言い出す。
 「そう、あれはごく上等の、クリームチーズのような味わいだったわ」

 エビフライ寿司のあとはチーズ味の寿司。 いよいよ将太が壊れ始めた。


2月17日(水) 今週の『将太の寿司』

この瞬間も、地球上では数億人の飢えに苦しむ人たちがいる。

寿司にチーズを混ぜて食べるという愚行を犯す将太

 そんな事は「チーズ味の寿司」という話を聞いた時点で気付け、 というのが正直な感想の今週の『将太の寿司』だが、 前に大年寺三郎太との一戦で使ったネタを再利用、 見事にチーズ味の寿司を作り上げた将太だった。
 今回そもそもブラジル料理の店に将太が行ったのは、 「世界の料理を学ぶため」だったはずだが、 結局ブラジル料理の技法は一切使わず昔使ったネタを使い回しした格好になった『将太の寿司』、 その狙いは新人寿司職人コンクール決勝、 笹寿司(=読売)との最終決戦に向け、 「一度使ったネタでも平気で使い回しますよ」 という作者・寺沢大介の決意のメッセージと言えるだろう。 最近、というか連載開始時からずっとマンネリ気味だった『将太の寿司』、 そろそろ大阪城でも破壊してみるか。

2月24日(水) 今週の『将太の寿司』

 世間では宣(35)が落合(30)のイジメにあってるという悪質なデッチ上げ記事が流布しているようだが、 今週の『将太の寿司』は、将太の友達のクソガキ・貴司君が児童館でイジメられるというお話だ。
 「ヤ−イヤーイ、糸引き星人!!ナットの国からナットを広めにやって来たナット星人だ!」
 と貴司君がイジメられるようになった発端は、父親が持っていかせた弁当による。
 ある日の昼、児童館で弁当箱を開けた貴司君は、 「メシ6:納豆4」という驚愕の光景に呆然とする。 それを見た周りの子供たちは、一斉にはやしたてた。

この日から貴志君は、クサクサ銀河ナットー国の糸引き星人に。

 「うわーっ、貧乏くせーッ、惨めーッ!」
 「こんな貧乏ったらし弁当初めて見た!!」
 「かわいそうだな貴志!おまえの親ってこんな納豆だけの弁当しか作ってくれないのかよー」
 と、いちいちもっともな指摘で、以来、 貴志君はみんなに「クサクサ銀河ナットー国の糸引き星人」と呼ばれるようになるのだ。

 さて、納豆の大量に入った弁当箱なんぞを持っていけばそんな羽目に陥るのは当然なのだが、 もちろん僕らのヒーロー・将太はこの納豆男を見捨てはしない。 将太は、貴司君をイジメていた子供たちを集め、 とびきりの美味しい納豆巻きを食わせてやるのだ。
 子供たちはその衝撃的な美味しさに感動し、貴司君にゴメンナサイとあやまるのでした。 めでたしめでたし。

 だがしかし、待て将太。
 子供たちが貴司君をイジメたのは、「貧乏くさい弁当」を持って来たことが原因であり、 納豆の美味いまずいの話ではない。例えば、「卵かけご飯」はいくら美味しくても、 学校に「メシ6:生タマゴ4」なんて弁当を持っていっては、 やはりイジメの対象となるだろう。
 ここで我々は、将太が寿司職人コンクールの決勝までいったその理由を知る事になる。 将太は、今回問題をすりかえる事で子供たちを巧みに洗脳したように、 寿司勝負でも自分の寿司の試食の段になると、 自分の寿司がいかに工夫されたものであるかという事を自慢気にペラペラと語り出し、
 「おお、そんなすごい工夫をしているならこの寿司はきっと美味いに違いない」
 と審査員を洗脳、イメージ点を荒稼ぎしていたのだ。
 おそるべし洗脳寿司職人・将太。コンクール決勝ではどのような巧みな弁舌が聞かれるか、 楽しみはふくらむばかりだ。


3月3日(水) 今週の『将太の寿司・江戸時代編』

 今週の『将太の寿司』はスペシャルの時代劇編。 江戸時代、城下では寿司屋「笹屋」(=読売)が寿司市場を独占していた。 笹屋は金持ちの客と貧乏な客を差別し、金のない客はには入店を断ったり、 安いネタを出したりと、 まあ昔に限らず今でも何処の店でもやってる比較的まっとうな商売をしていたが、 資本主義というものが理解出来ない将太の先祖・将乃介は、 狩りの最中の将軍様に自作の寿司を食わせ、 得意の口八丁手八丁で将軍様のお気に入りになるのである。そして、
 「おまえたちには何か褒美を与えなくてはなるまい、何なりともうしてみよ」
 との将軍様の言葉に、将乃介はこう言い放つのだ。

♪子供のけんかに親が出る〜

権力で世界を思いのままにしようとする将乃介

 「実は…将軍様のお力で成敗していただきたい悪党が2人ほどおりまして」
 これにより笹屋はお取りつぶし、ワイロをもらっていた老中も謹慎と、 二つの一族をきわめて不当な手段で壊滅させるのである。
 それでいいのか、将乃介。
 将軍様へ寿司という名のワイロを贈り、双方による話し合いではなく 絶対権力で一方的に相手を叩きつぶした将乃介のやり方は、 笹屋の金にものを言わせるやり方と何処が違うと言うのだ。
 「この先祖にしてこの子孫あり」
 今回の『将太の寿司・江戸時代編』は、 シゲオの息子は所詮一茂、一茂の親は所詮シゲオという事を、 あらためて読者に訴えかける、中身の濃い一作だった。

3月10日(水) 今週の『将太の寿司』

 いよいよ新人寿司職人コンクールの全国大会。 将太の元にはかつて戦ったライバル達が続々と応援に駆けつける。 こういった「かつて戦った敵が後々仲間になる」というパターンは、 『リングにかけろ』『キン肉マン』の代から続く悪しき風習であるが、 『将太の寿司』は今までのそういった路線とは微妙に一線を画している。 それは以下のセリフでも明らかだ。

どんどんイヤな人間になっていく将太

 「切島(人の鬼と書いて)カイは僕や父さんの敵…笹寿司(=読売)の手先であり、 しかも僕の仲間・坂田さんを傷つけた最低のやつです!」
 たった一度だけ予選で顔を合わせただけの坂田は「僕の仲間」、 何度も何度も手を合わせた笹寿司は「最低のやつ」呼ばわりなのである。
 アンチ笹寿司の将太は、相手が「笹寿司」というだけで、 相手の本当の気持ちを知ろうともせず毛嫌いし、決して仲よくなろうとはしない。 何と心の狭い男なのだろう。
 かつて中日ファンは読売から来た仁村薫に「ようこそ中日へ!」と歓迎したものだが、 過去の因縁や着ているユニフォームにこだわり、 人として大事なものを失ってしまった将太は、 やがて「第二の笹寿司」となるだろう。 敵を徹底的に排除し、 自分に取って都合のいい人間のみ引き入れる、 その姿勢こそが笹寿司(=読売)と同質のものだからだ。

今週の『将太の寿司』セレクト