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D's Aug !

八月前半
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中日



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八月後半
1617181920 2122232425 262728293031
中日 .





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(○…勝利、●…敗北)

六十四勝四十四敗(一位)

八月一日(日) 公開中継ぎテスト

●中0−2ヤ○(ナマ観戦)
正津→岸川→大塔→岩瀬)

 「くうっ、やはりここでは格が違うで。 っていうか何でこんないいピッチャーが二軍におんねん?」と、 対戦相手の近鉄ベンチから羨みの声が上がる。 この日ウエスタンの対近鉄戦で先発した前田は、 八イニングを投げ九奪三振、四安打、一失点と流石の投球内容。 これで二軍降格後は六試合に投げ一完封を含む五勝目、防御率は〇・九三と いつ一軍に上がってもおかしくない好成績だ。 「だがしかし、層が厚すぎるというのも困った話だ。 一軍から誰を落とせばいいんだろう」。 ところ変わってナゴヤドームの一軍戦。 「出来れば、一軍半の投手に投げさせ前田との入れ替え投手をピックアップしたいんだが」 というセンイチ君の思いを察したのか、先発・正津は四回二失点と適当なところで降板。 試合は一軍・二軍入れ替えテストモードへ突入した。 その岸川・大塔ともに短いイニングを無失点とまずまずの内容、 最後には左の岩瀬もテストで投げさせたものの、結局中継ぎ陣は三人投げて無失点。 全員及第点といった内容に「ああ、前田の代わりに落とす投手が見つからないよ」 と思わず嬉しい悲鳴の上がる、前田との公開入れ替えテスト試合だった。

八月二日(月) 藪、自滅

●神2−7中○(ナマ観戦)
野口→サムソン)

 「こ、これが音に聞こえた強竜打線…。 甘い球を投げたら打たれる、甘い球を投げたら打たれる」。 藪の心臓は今にも爆発寸前だ。 何せ首位をひた走る強竜打線、 ここまで偶然ノーヒットに抑えているとはいえ、 藪に襲いかかるプレッシャーは地球一つ分の重さほどある。 四回、藪は先頭の李に死球を与えると、 続く関川にフォアボール、 ゴメスにまたもや死球で、無死満塁とピンチを拡げる。 何とか二死満塁にした藪だったが、 強竜打線の見えないプレッシャーに負けた藪は七番・井上に痛恨の暴投 (記録は矢野のパスボール)で二点を与え、勝負は決まった。 藪を責める声もあるだろう。 だがしかし、これは致し方のない事なのだ。 強竜打線の前には誰だってビビってストライクが入らなくなってしまうのは人として当たり前、 ましてや「一流は一流を知る」、 藪ほどの一流投手なら投げる前から強竜打線の恐ろしさを本能で察知してしまうのだ。 藪は悪くない。 悪いのは、これほどまでに相手投手にプレッシャーを与える竜戦士達なのだ。

八月三日(火) 阪神、また自滅

●神0−2中○(ナマ観戦)
山本昌→落合→岩瀬→S宣)

 「ま、まさかッ。阪神はあの、恐ろしい奇病にかかっているのでは…?」。 そんな心配が倉敷マスカットスタジアム・二万五千人の観客の脳裏をよぎる。 その奇病とは「自滅しないと死んでしまう病」。 中日では門倉が突発的にかかる病気として怖れられている。 四回、阪神先発・中込は先頭のゴメスに四球を出すと、 パスボールでランナーを二塁へ。 さらに立浪の送りバントをジョンソンが一塁悪送球で先制点、 続く井上が犠牲フライで二点目を取り、 まともなヒットが一本も無いまま試合が決まってしまった(中込の自責点はゼロ)。 阪神ファンにして見れば何だかダマされたような試合内容だったが、 だがしかし、これは致し方のない事なのだ。 「自滅しないと死んでしまう病」の前には誰だって知らず知らずのうちに自滅してしまう。 門倉だってそうなのだ。 病気の人なら犯罪を犯したって情状酌量の余地がある。 阪神が負けたのは、中込のせいでも矢野のせいでもジョンソンのせいでも無く、 かかる奇病のせいなのだ。

八月四日(水) 福留、先頭打者アーチ!

●神0−2中○
門倉→サムソン→落合→岩瀬→S宣)

 「うぎゃーっ!や、やられたああっ!!」。 高松市営球場、一塁側阪神応援スタンドから四国本島を引き裂くような悲鳴が上がったのは初回、 まだプレーボールの「ル」も言い終わらない夕方六時ちょうどの事だった。 「プレーボ……ホ、ホォームラーン!」。 球審・井野の手がぐるぐると回る。 まさに「瞬殺」。中日先頭・福留が阪神先発・船木(舟へんに公)の初球を捉えてズゴゴゴゴーーン! とライトスタンドへ叩き込んだのは、試合開始後わずか〇・二秒だった。 「あ、あかん!中日相手に先制されてもた!」。 一瞬で八連敗が確定した阪神ベンチが途方に暮れる。 事実、門倉を始めとするサムソン・落合・岩瀬・宣の中日最強投手リレーの前には、 この一点で充分だったのだ。 余裕綽々の中日はその後、八回に中村タケシが二盗をするなどお客さんを笑わせ、 さらに三盗を試み失敗するなど、 退屈気味な高松二万二千観客を充分に沸かせるファンサービスにも余念が無かった。

八月七日(土) 抜け目ない敗戦

○横5−0中●(ナマ観戦)
川上→岸川→大塔)

 「川村は後半、竜が優勝ロードを突き進むに当たって欠かせない存在。 ここらでエサをまいておくか」。 そんな深淵な作戦が竜ナインのバットを湿らせる。 投手陣が半分以上崩壊している横浜に、後半戦も「横浜のエースは川村」 と思わせておくのは終盤に大いに強みになる。 「ここで川村さんをメッタ打ちすると、ローテからハズされるかも知れない。 中日に強いという印象を与えておかなければ」。 そんな長期的展望に乗っ取った策略は、 前日まで阪神に三連勝した今だからこそ出来ること。 捨てゲームを捨てゲームで終わらせない、 あくまで終盤の優勝争いを見据えて川村に完封勝利をプレゼントする竜打線のあまりの抜け目なさに、 横浜スタジアムに詰めかけた竜ファンからも思わず「金返せ」の声が上がっていた。

八月八日(日) ササキ手術でマシンガン打線爆発!

○横16−4中●(ナマ観戦)
武田→岸川→大塔→正津)

 「ササキさんの五億円が宙に浮いた」「あの五億円はオレがもらう!」「いや、俺が!」「俺が!」「俺が!」。 横浜・ササキのシーズン中の手術が決まり、 来季FA移籍も確定的で浮いた「ササキの五億円」を巡り俄然やる気を出し始めたマシンガン打線に、 ピュアなハートのストイック竜投手陣がメッタ打ちを喰らう。 読売ビッグマネーを蹴って中日入りした武田は、 このベイ打線の「五億円争奪パワー」にただオロオロするばかりで、 続く岸川・大塔といった清貧芋を洗う投手陣もなすすべなく火だるま。 武田が初回に五点を取られたところで「一体、金の力とはどれくらい凄いんだろう」 と傍観する竜ナインを前に、ベイ打線は二十二安打十六得点と猛爆発。 あらためて 「金、金、金の世の中で、何が本当に大事なのか。 俺たちが教えなくてはいけない」 と、心をあらたに今日の敗戦を胸に刻む、 他人の振り見て我が振り直す竜ナインだった。

八月十日(火) 一番関川・三番福留、新コンビ競演!

○中5−2神●
野口→落合→S宣)

 「ぬおおっ!この前はよくもウチのルーキー福留をッ!許さん、許さんぞベイ!」。 八日の横浜戦で福留が悪逆非道・斎藤隆から右肘をスナイプされた事で、 竜戦士は燃えに燃えていた。 この日のオーダーでは一番にいると狙われる福留を三番に置き、 替わりにガッツマン・関川を一番に起用。 死を怖れない関川は期待に応え、四打数四安打二打点の大活躍。 新三番・福留にも二点タイムリーが飛び出し、五回に一挙五点をもぎ取る。 投げては後輩の面倒見のいい野口が 「許さん!許さんぞベイ打線!福留の仇は俺が取る!」とばかりに七イニングを二失点で抑える力投、 最後は落合→宣の盤石のリレーで快勝した。 「…それにしてもベイって、こんなに弱かったっけ?」 「あれ?よく見りゃ阪神じゃん!」 「…あちゃー。タテジマだから、間違えちゃった」。 今日の相手はベイでは無く阪神だった事に選手達が気付いたのは、 試合終了後の事だった。

八月十一日(水) 山本昌、バースデー勝利!

○中4−1神●
山本昌→落合→Sサムソン)

 「優勝したとき、『山本が投げていた』と言われるくらいの成績を残せるようにね」。 三十四歳の誕生日を勝利で飾ったヴェテランから力強い言葉が飛び出す。 さすがに山本昌ほどの選手になると、ヒーローインタビューのコメント一つとっても奥が深い。 この何気ない言葉には、不調の川上・門倉への叱咤激励、 今中・鶴田らへの「早く上がって来いよ」というゲキが含まれている。 「優勝したとき、『○○が投げていた』と言われるようになろうぜ」という訳だ。 そしてこのところインタビュー慣れしてきた打のヒーロー・井上もまた、 「これからも紙面をにぎわしたいですね」と、種田・遠藤・山田洋・中山にキツーいボディブロー。 野球に関係ないところでは紙面をにぎわしてはいけませんよ、 というお説教を暗に含む味のあるインタビューだった。 何げない言葉の中にさまざまな深い意味の含まれる山本昌・井上のインタビューだが、 「野口よ。お前も毎回『中村さんのミット目がけて投げただけです』だけじゃなく、 ちょっとはプロらしい受け答えをしろよ」 との思いは、野口に届いたかどうか。

八月十三日(金) 新一、二番コンビ活躍!

●広2−6中○
川上→岩瀬)

 「お、恐ろしいチームじゃ中日はーッ。 この踏ん張りどころで、こんな秘密兵器を隠しとったとは…!」。 広島・達川監督が羨ましがる気持ちもよく分かる。 前半戦は敢えてベンチ待機していた久慈が、 満を持して「二番・ショート」で復活したのだ。 ここまで振り絞る弓のようにベンチの中でパワーを蓄えていた久慈は、 引き放たれた矢となって広島投手陣をつらぬいた。 関川もそれに呼応して二安打二打点の大活躍で、 新一、二番コンビが確実にチャンスを作る「強竜打線・夏ヴァージョン」 の前には「打線をつなげるな」という方が無理な話。 エース佐々岡をKOされた広島は、 「ウチの事情も分かってくれ」とばかりに 病み上がりの横竜(中日ファン)をフラフラの姿で登板させ、 中日の情に訴える作戦に。 これにホロリと来た川上は嶋にツーランを打たせ市民球場のお客さんにファンサービスするなど、 完封を捨ててまで横竜の心意気を買う、 心の大きなところを見せていた。

八月十四日(土) 後輩思いの門倉、序盤KO

○広6−5中●
(門倉→前田→岩瀬)

 「今頃、後輩たちはどんな思いで帰りのバスに乗っている事だろう…」。 そんな思いが門倉のナイーヴなハートを締め付ける。 この日、夏の甲子園大会で門倉の母校・聖望学園(埼玉)が 日田林工(大分)の前に三対五と敗れてしまったのだ。 後輩思いの門倉だけに、 「こんな事なら甲子園に激励に行って、 みんなに俺のアゴでも触らせてやるんだった」 と後悔の念にかられた事だろう。 心に動揺のある門倉は、広島打線相手に知らず知らずのうちに五失点。 奇しくも母校・聖望学園と同じ失点数でマウンドを降りたのだった。 その後中日は猛打で五対五の同点に追いついたものの、 昨日の試合で負傷退場したはずの江藤が打席に立つ姿を見て、 「僕を酷使投手だなんていう人がいるが、 カ−プの選手に比べれば僕なんてまだまだヒヨッコ」 と、レヴェルの違いを痛感した岩瀬が江藤にホームランを浴び、 プロの厳しさを味わいながら岩瀬はまた一歩成長するのだった。

八月十五日(日) コイは儚く消えていく

●広2−3中○
野口→S宣)

 「…なァー、大野ォー。ワシら、何かセンさんを怒らせるような事したかいのォー? これじゃーイジメと変わらんぞォー」。 中日の先発が中四日で野口と知った瞬間、達川監督の眉間のしわが三本増えた。 確かに、五位・広島相手にローテーションを崩してまで中四日で野口というのは何とも大人げない話。 ただでさえ選手の個体数激減により絶滅の危機にある広島カープをここまで徹底して叩こうとは、 グリーンピースなど各種保護団体に知られたら猛抗議が来そうだ。 だがしかし、センイチ君とて鬼じゃない。 「このままでは広島さんをイジメてるみたいや。ちょっとハンデをくれてやらにゃ」。 中日は三回、四球とエラー二つでノーヒットのまま広島に二点をプレゼント、 さらにセンイチ君はエラーに怒ってる振りをしながら福留をさりげなくベンチに下げるなど、 ニクいまでの心配りで広島にハンデを与える。 しかし、それでも広島は広島だった。 四回、中日は二死一三塁から、 燃える決意で渾身の力を込め皆が待ってるスタンドへ運んだ立浪のスリーランでスッコーンと逆転、 広島のリードはわずか十分ほどの、淡く儚い鯉だった。

八月十七日(火) 嵐を呼ぶ「代打・川相」!

○中3x−2読●
(山本昌→岩瀬→落合→サムソン)

 「ほほう、高橋がスクイズか。…フッ」。 八回表一死三塁、ウルフ高橋が「生涯初」というプライド無きスクイズを敢行したとき、 センイチ君はニヤリとほくそ笑んだ。 これで得点は〇対二と中日二点のビハインド、終盤にきてこの一点は致命的とも言えるはず。なのに何故。 自軍の看板打者のプライドと引き替えに取った一点で「ナイス采配!ミスター!」と大はしゃぎしている読売ベンチをよそに、 ナゴヤドームに詰めかけた四万五百人(マイナス若干名)の中日ファンもまた「ニヤリ」とほくそ笑んでいた。 みんな知っていたのだ。これがどういう意味を持つのか、という事を。 そして九回表、その瞬間はやって来た。 「バッター、上原に代わりまして、川相」「来たァー!優勝キップじゃー!!」。 (今後まだ二戦登板予定があるため、敢えて打てない振りをしていた)上原に打順を回し、 代打を出させるという狙いすました作戦。 高橋からスクイズ失敗ゲッツーを取るのは簡単だったが、それでは上原に打順が回らなかったのだ。 そして九回裏、マウンドに立った優勝キップ配達人・槇原はいつも通りヒットとフォアボールで詰まり便所のように塁上にランナーをため、 渡辺に同点押し出し・関川にサヨナラタイムリーと期待にたがわぬ炎上振りで、 ただならぬ一勝を中日にプレゼントしてくれたのだった。

八月十八日(水) 読売、「崖っぷち」

○中3−2読●
武田→落合→サムソン→S宣)

 「お前は既に、死んでいる」という格闘漫画がかつてあったが、 初回にゴメスのスリーランが出た時点で読売は既に死んでいた。 無敵の武田を始めとする中日投手陣から「三点取れ」 というのは、山本昌に「百五十キロ投げてみろ」、 山崎武司に「やっぱ山崎武司っていうと三割バッターのイメージが強いよネ(*1)」 というようなもの。そんな無茶を言ってはいけない。 しかし、自分が死んでいる事に気付かず「崖っぷち」「もう負けられない」 と涙なくして打鍵出来ぬ文字列を泣き叫ぶ読売ファンの声援を、 「もう落ち取るがな」と冷たく突き放せる竜戦士たちではない。 武田は三回に仁志にタイムリー、六回にはウルフ高橋あらためスクイズ高橋にタイムリーと、 香典代わりの二失点で読売ファンを大いに盛り上げ一点差に詰め寄らせる心の余裕振り。 はからずもシーズン前に読売が掲げたテーマ 「一点差ゲームに競り勝つ」を実践する機会を与えたわけだが、 そんなテーマがあった事など読売選手・スタッフ誰も覚えているわけがなく、 落合→サムソン→宣の前にブンスカブンスカ振り回して敢えなく終了。 そして明日も新聞には「崖っぷち」「もう負けられない」の文字列が並ぶのだった。

(*1)…月刊ドラゴンズ『よねちゃんの代打でトーク』より

八月十九日(木) 渡辺サヨナラ打!読売を三タテ!

○中6x−5読●
(川上→前田→岩瀬→落合)

 「ま、まだまだ勝負の時期じゃないよ。 あちらさん(中日)はもうムチをいれてるの? ヤマは九月ダヨ、うん、もうフタヤマあるヨ!」 としげお君が試合前に言っていた割に先発はローテーションを崩してまでガルベス、 マルちゃんをベンチに下げ松井を今季初の四番に繰り上げる、もう後がない必死のオーダー。 水流添久(*)もびっくりの〇・二秒の回転ムチで目の前の一勝を取りに来た読売に胸を打たれた中日先発・川上は、 新四番・松井に棒球を配球し二打席連続ツーランを浴びるなど 弱者に気を配る川上ならではの五失点。 「僕にしてあげられるのはこの五点までです。 親友・高橋のチームメイトの皆さん。強竜打線相手にこのリード、守れるものなら守って下さい!」 とマウンドを降りた川上だったが、 この川上からの心温まる「送られた塩」を守れる読売投手陣では無かった。 「さ、もうサービスタイムは終わりです」。 中日打線は〇対五のビハインドを連打・連打・タイムリーであっという間に追いつき、 延長戦に突入。そして迎えた延長十二回裏、 関川ヒットのあと渡辺の劇的サヨナラツーベースが飛び出し、 五点のビハインドさえ中日戦では安全圏ではないという事をまざまざと見せつけ 読売の自力優勝を消滅させる大人げない勝利を見せた。

(*)…つるぞえ・ひさし。通称みずながれ・そえひさ。 後に名前を間違えられるのが嫌で「五十嵐久(いがらし・ひさし)」と改名するが、 いそ・らんきゅうと呼ばれるだけだった。 JRAの騎手で、その回転ムチは一秒間に五回転と言われ、 ムチ好きマニアの注目を集めた。故人。

八月二十日(金) 中日、消化試合スタート

●中0−7広○
大塔→正津→中山)

 「なんじゃあ、先発・大塔じゃとー? …なあ大野ぉ、昨日で二位との差を七・五ゲームにして、 もう中日さんは消化試合モードに入ったんかのぉ?」。 その通り、中日はもう消化試合モードに入ったのだ。 いやいや、消化試合というと聞こえが悪い。 Vまでのカウントダウン、さらに続く日本シリーズのための、 投手陣の調整試合と言った方がいいだろう。 せっかく一軍にいるのに出番のない大塔・正津・中山らの実践投球練習となったこの試合、 岩瀬や落合らをゆっくり休養させる意味合いもある。 そういう首脳陣の心配りを察した竜打線も、 「接戦にしてしまったらまた投手陣が大変だな」とばかりに 今日のところは素振りと内野ゴロを打つ練習に徹し、 ナゴヤドームを借りた三時間弱の公開練習は、 戦士たちにひとときの休息を与えた。

八月二十一日(土) 野口、トップタイ十四勝!

○中4−1広●
野口→岩瀬→S宣)

 「ようし、今日は行けそうだ!今年は最多勝狙っちゃうぞ!」 と野口が確信したのは、二回表二死満塁のピンチ、 東出をピッチャーライナーに仕留めたときだった。 いつもマウンド上では冷静な野口も、 このときばかりは小躍りしてバンザイ、 喜びを体全体で表現するほど。 その後は三塁を踏ませない快投で、 九連勝で読売・上原に並ぶハーラートップタイの十四勝目を挙げた。

マウンド上で小躍りする野口
マウンド上で小躍りして喜ぶ野口。

八月二十二日(日) 日本シリーズに向けて

●中2−4広○
山本昌→山田洋→前田→正津)

 「さすがはヤマ兄貴、早くも気持ちは日本シリーズですね?」 と、ナゴヤドームの四万観衆も思わず感心してしまう。 この日の山本昌は広島打線相手に六回を投げ、 打者二十三人に被安打五、うち被本塁打四(四死球〇)と 「五本のヒットのうち四本がソロホームラン」 という逆一発屋ピッチング。 「どうしたんじゃー。武田が三十四番のユニフォームでも着てるんかいのう」 と広島ベンチにいらぬ心配をかけてしまったが、ナゴヤドームのお客さんは知っていた。 このピッチングが来るべき日本シリーズに備えた、 ダイエーの主砲・小久保を想定した実践シミュレーションである事を。 小久保は打率はパリーグ最低の二割一分ながら、 本塁打は十八本(二十二日現在)という「和製ランス」。 そんな小久保の怪バッティングを研究するため、 一発屋の多い広島打線を小久保になぞらえ、 自らの勝ち星をひとつ犠牲にしてまでデータ収拾につとめた流石のベテラン・山本昌だった。

八月二十四日(火) 中日、マジック“二十七”点灯!

ヤ(降雨ノーゲーム)中(ナマ中止)
(武田(二回1/3))

 「んん、今日はちょっと山崎の調子が悪そうだなあ。 トーチュウには『最後通告』って書かれていたのに、大丈夫かなあ。 その日の体調ってもんもあるし…。ようし、雨でも降らしちゃおっかな!」 と思ったのは雲の上からトーチュウ片手に試合を見ていた竜の神様だ。 山崎の第一打席、セカンドへのポップフライを見て、 「今日の山崎は体調がおかしい」と感じた神様は、 「今日は勝ち負けより山崎が優先」とばかりに大空に雷を五発・六発、 大雨を降らせて試合を強制終了させてしまった。 「ピカピカッ!」。神宮の夜空で光った雷が、 「山崎、ゆっくり休んで体調を整え、明日に備えるんだよ」 と優しく語りかけていた。
M27

八月二十五日(水) 関川夫人、激白!

●ヤ1−6中○(ナマ観戦)
川上→岩瀬→落合→サムソン)

 「二年前の阪神時代とは、やはり違います」。 そんな弓子夫人のセリフが泣けてくる。 この日、勝ち越しのタイムリーと二つのスーパープレーでお立ち台に立った関川だったが、 中日スポーツの電話インタビューに夫人はこう続ける。 「今年は野球がとても楽しいと口癖のように言ってます。 監督のために優勝したい、それがやりがいだなんて、意気込みが違います。 そんな主人を見てると、私までうれしくなって、家でも野球談義がはずむんですよ」。 これまでも何度か関川の口から出てきた「中日に来てよかった。阪神なんかひどいもんだった」 という言葉は、中日ファンへのリップサービスでも何でもなく事実だった事をあらためて知った中日ファンは、 大豊の行く末を案じ大粒の涙を流すのだった。
M26

八月二十六日(木) 山崎復活へ向けナイン一丸!

○ヤ6−1中●(ナマ観戦)
山田洋→正津→中山)

 「この神宮シリーズは山崎さんの選手生命をかけた大事な試合。 何としても、山崎さんを男にしようじゃないか!」。 そう誓いあった友情厚い竜戦士たちが、 七回までヤクルト先発・ハッカミーの前にノーヒット・ノーランだったのは勿論伊達や酔狂だ。 「ノーヒットだけはいかんぞ!ノーヒットだけは!」。 そんなイラつく指揮官の胸をスカッとさせる初ヒットを放ったのが、最後通告男・山崎である。 そう、竜戦士たちは、山崎のヒットをより鮮やかで印象深いものにするため、 「山崎さんより目立っちゃいけない」とここまで敢えて沈黙を守っていたのだ。 試合後、センイチ君はこの山崎のヒットを振り返って、 「反撃の糸口を切った山崎は、神宮球場が相性がいいというか、ここでは三割以上打っていて、今日もそのとおりになった」 と、勝ち負けも忘れてノーヒット阻止の山崎に満足顔、 まんまとナインの思惑にはまっていた。

M26

八月二十八日(土) 野口、余裕の二回KO

●中2−11横○
野口→遠藤→正津→中山)

 「いつの間にやら九ゲームも離れている横浜なんぞはアウト・オブ・眼中。 それより俺を読売戦で使ってください!」。 エース・野口のそんな気持ちが痛いほど伝わって来る。 この対横浜二連戦のあとは対読売三連戦。 ミラクルだの何だの夢の世界に飛んでいった人達を現実に引き戻すのも竜戦士の大事な仕事だ。 谷間の三戦目に自分を使ってもらうため、 今日の試合は二イニング投げただけで降板、 中三日登板に向け気迫の直訴で肩を温存した野口だった。
M26

八月二十九日(日) 中村、炎のサヨナラ打!

○中5x−4横●
(山本昌→岩瀬)

 「ここは中村に代打を送った方がいいんじゃないですか?音もいるんだから」 とテレビ・ラジオの解説&アナが一斉に首をかしげた。 二対三で横浜一点のリード、九回裏最後の攻撃で二死一二塁、 その場面でバッターがセリーグ最低打率を誇る中村武司では、 小松辰夫が心配する気持ちもよく分かる。 だがしかし、マウンド上の横浜・島田だけは中村の出すオーラに気付いていた。 「イヤな予感がする…。中村さんに打たれそうな…」。 すっかりビビった島田は、初球ワイルドピッチでランナーを二三塁に。 しかし、このワイルドピッチを責めるわけにはいくまい。 マングースを前にして萎縮しないハブがいるだろうか?「否」。 そして中村は、続く島田の二球目をカキィーンときれいに弾き返し、 レフトオーバーの劇的サヨナラタイムリーで試合を決めたのだった。 島田はの「イヤな予感」は当たっていた。 そう、中村は五月から今日までわざと「打てない振り」をし、 敢えて泥をかぶり打率を二割に下げていたのだ。 二死二三塁でも勝負に来る、この日この時この瞬間のために。
M25

八月三十日(月) 白旗を掲げるライトスタンド

○読6−4中●(ナマ観戦)
武田→前田→小山→中山)

 「やや、見ろよ読売の応援スタンドを!戦う前から早くも白旗を掲げているぞ!?」。 東京エッグのライトスタンドで読売ファンがトランペットに合わせ、 心なしか涙目で白いタオルをグルグル振り回している。 無論、「白」といえば「降伏の証」である。 「中日さんが強いのはよく分かりました、もう勘弁して下さい。 せめて、せめて上原には新人王をとらせてあげて下さい!」 といった読売ファンの血の叫びなのだろう。 白旗を掲げて降伏の意思を示している敵を蹴倒すような、そんな非情な事が出来る竜戦士達ではない。 情に厚い武田は「武士の情け」とばかりに初回に三失点、 中山・小山もそれに続き計六点を献上した。 何とも心やさしい竜投手陣の心の広さが存分にあらわれた試合内容になったわけだが、一方では 「今日の試合はくれてやる。だがな、上原ごときいつでも打てるって事を教えておくぜ」 とばかりに八安打四得点と上原を簡単に攻略、 上原なんぞその気になれば「屁のカッパ」である事をさりげなく見せつけていた。

白ハンカチで降伏を示すライトスタンドの読売ファン
白ハンカチで降伏を示すライトスタンドの読売ファン

M25

八月三十一日(火) 竜軍、その優しさゆえに

○読8−0中●(ナマ観戦)
川上→山田洋)

 「もしここで岡島君をKOしてしまったら、 向こうは間違いなく西山君を投入してくるだろう。 ああ、今日もまた投げてしまったら、西山君は死んでしまうぞ!」。 読売先発・斎藤雅が竜打線に怖れをなして〇回三分の二でマウンドを逃げ出したため、 マウンドでは一回途中からスクランブルの岡島が投げていた。 竜戦士の心に動揺が走る。 それもこれも、西山が四連投で三勝目をあげた翌日の報知新聞で 「西山は、食事中に箸を持つ手が痙攣するほど疲れていたのに、気合いで投げきった」 という記事がさも美談のように掲載されていたからだ。 「岡島をKOしたら(勝っても負けても)リリーフ西山」 という悪夢が心優しい竜ナインのバットを湿らせる。 「西山君に投げさせてはいけない、西山君が死んでしまう」 と思っているうちにいつの間にか試合は終了、 竜戦士の優しい気遣いによりかろうじて西山の命は救われた。 (だが、岡島が無駄に八回三分の一を投げきった事により今度は柏田の投手生命に危機が!)
M25

Dragons at Aug.1999


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