世の中に数ある幸福論のひとつに、 「幸福とは、相対的なものである」という考え方があります。 テレビのワイドショーで芸能人の家庭崩壊を覗き見して、 「あらあら、大変だねえ」とせんべいをかじりながら同情し、 「それに比べて、うちは平和でよかったねえ」と安心する。 芸能人の息子が違法ドラッグで捕まったというニュースを聞いては、 「やれやれ、ろくでもない息子だねえ。それに比べて、うちの息子はいい子でよかった」 とちょっと得意になる。 火事で全焼した家を見て「焼け出された人は大変だねえ。それに比べて」とホッとし、 交通事故で誰かが死んだというニュースに「残された家族は大変だ。それに比べて」 と自分たちの平和な暮らしを再確認する。 だから人は他人の不幸が大好きなのです。 だから人は他人の幸せが嫌いなのです。 幸福とは相対的なもので、 誰かが幸せであれば自分は不幸だし、 誰かが不幸であれば自分は幸せだから! そういう「相対的な幸福感」は、 ワイドショーや芸能ゴシップ誌好きの心のねじくれたオッサン&オバサンに限らず、 純粋無垢な子供でもある事です。 たとえば学校で「オレん家、今夜はカレーなんだぜ!」と自慢したとき、 クラスメートの剛田君が「いいなあ、うちなんか毎日玄米とメザシだよ」と言えば幸せな気分になれるし、 出来杉君が「へえー、家庭的でうらやましいなあ。うちは今日はザギンにシースー食いに行くんだ。 最近外食ばっかだから、たまにはカレーみたいなのも食いたいなあ」 と言われたら途端に幸せな気分は吹き飛び、 出来杉君の靴に画びょうのひとつでも仕込みに行くでしょう (この場合の画鋲仕込みは人道的に合法であると法律で保証されています!)(いません!)。 「今日の晩ごはんはカレー」という事象はそれ単体では幸福でも不幸でもなく、 他人の晩ごはんが何かによって、幸福か不幸かに分類されるのです! 人は他人との比較で自分が幸福か不幸かを測る。 「皆が携帯ゲーム機を持ってるのに僕だけ持っていない」 「隣の旦那さんは課長になったのにうちの亭主はヒラ社員」 「街にはカップルがあふれているのに俺には彼女がいない」 「同年代の平均より給料が安い」 「背が低い」 「顏がブサイク」 「監督が高木守道」。ああ!俺以外の人間はあんなに幸せそうなのに、 どうして俺だけ不幸なんだ! 持ってるも持ってないも、高いも安いも、外れたも当たったも、 すべて何かとの比較、誰かとの比較です。 それが「幸福とは、相対的なものである」という考え方です。 そんな“相対的幸福論”に基づくなら! 『プレシャス』は自分がいかに幸せであるかをたっぷり感じることが出来る映画です。 幸せ気分を味わいたい人は是非!
(2013.01.21)
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原題 | Precious: Based on the Novel Push by Sapphire |
邦題 | プレシャス |
公開/製作 | 2009年/アメリカ |
出演 | ガボレイ・シディベ(プレシャス)、ポーラ・パットン(レイン先生)、マライア・キャリー(ワイズ夫人) |
監督 | リー・ダニエルズ |