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ヘッドハンター


僕の生まれ育った故郷はいわゆる平野で、 契約更改で阪神と揉めてFA宣言したはいいんですが他球団から全く声がかからず、ファンからは 「身の程を知れワロスぷげら」 「エアFA宣言」 「なおその日までに平野への他球団からの連絡はなかった」 「桧山二世あらわる」 と揶揄され、 最終的には以前契約更改で揉めて放出された一度ケチがついてるオリックスに出戻りしたのは平野恵一ですよ! やっぱFA宣言っていきなりしてもダメで、ある程度根回してないと大変ってことですね!

そうじゃなくて。

ヒラノではなくてヘイヤです、平野! 庄内平野!

国道を飛ばすと見渡す限りの田園風景。BGMには松任谷由美の『中央フリーウェイ』が流れます (東京じゃないけど)(国道七号線だけど)。 「空は青い!白い雲が浮かび、鳥が空を飛び、なんと田舎はビューティホゥ! こんな空気のいいところでヨウゾウは育ったんだな! 道理で素直で真っ直ぐな子に育ったはずだぜ!」 なんて豊かな自然に心打たれながら外の新鮮な空気でも味わおうなんてパワーウインドウのスイッチを押した瞬間、 「ファッ!? なんだこのスメルは!?」 と大変なことになるのですよ! 都会から来た連中は!

田舎で車を走らすときは迂闊に窓を開けてはいけません。 そのかぐわしいスメルは“田舎の香水”と呼ばれるもので (「田んぼの香水」「畑の香水」とも言います)、 このあたりには至るところに肥溜めがあり、 生温かい風にのってプリティー・スメルが鼻をつんざくのです。 車の窓なんか開けたら鼻腔に刺激臭が山本昌のヤリのように突き刺さって、 呼吸困難で手元が乱れ、自動車事故を起こし兼ねません! 田舎の平野では窓を開けないでください! 田舎の平野では窓を開けないでください!

ま、それが田舎のいいところなんですけどね! ナイス・スメル! (「新鮮な空気」が吸いたかったら山や森に行ってください! 平野には“田舎の香水”の香りしかありません!)

スウェーデン映画『ヘッドハンター』は、 ヘッド・ハンティング(引き抜き)を職業とする主人公が、 ふとした事から怖い人に命を狙われる羽目になります。
田舎の山小屋に追いつめられる主人公。殺し屋がすぐそこまで来ている。 見つかれば殺される。狭い山小屋の中で、主人公は絶体絶命の危機に瀕します。
ふと床を見ると、そこには木の板で出来たフタのようなものがありました。 フタを取ってみると、そこには!

“聖なる泉”があったのです!(ちょっとドラクエっぽく言ってみました)

はい、賢明な読者の皆さんなら説明は不要ですね。 “聖なる泉”は田舎の香水がひたひたと溢れている秘密の井戸のことです。 田舎なので水洗トイレじゃありません。 そこには、たっぷりとひたひたと、カレー鍋のような泉が待ち構えてるのです。 僕は血の気がすぅーっと引いていくのを感じました。
逃げ場のない小屋、敵が少しずつ近づいている、 足元には聖なる泉(カレー鍋)。どうする!? 俺ならどうする!??

次の瞬間、どんな恐ろしい事が起きたのか、 主人公がどんな選択をしたのか、僕には書く勇気がありません。
ひとつ言えるのは、このあと、危機を脱してさらに逃走を続ける主人公に、 僕は思わず

「早く!早く逃げて! そして一刻も早くお風呂に入って!」
「何処かに川はないのか! 川は!?」
「川に飛び込んで早く体を洗ってー!川はどこー!!」

と、まるで自分のことのように主人公に感情移入し、 主人公の目線で川や民家を画面の中に探したのです。 こんなにドキドキハラハラ! 緊迫感のある映画は初めてです!
どうでもいいから早く風呂に入って! 大変なことになってるよ!!

人間は生理的にいやなものは体が拒否します。 もし僕が主人公と同じ場面に僕がでくわしたら、 頭の中では「選択肢なんかない!やるしかないんだ!」と分かっていても、 勇気ある一歩が踏み出せず、 聖なる泉の前で決断を躊躇している間に、 敵に見つかって山小屋の中で殺されていたでしょう。 昨日までの僕なら。

しかし、この映画を観てしまった僕は、 同じ場面に遭遇したとき、 絶体絶命の危機に陥ったときに、 勇気ある一歩を踏み出せそうな気がします(主人公がしたように!)。
昔の人は言いました。

「どうしようもなくなったら、ウンに身を任せよ」!

(2013.03.07)


原題Hodejegerne
邦題ヘッドハンター
公開/製作2012年/ノルウェー、ドイツ
出演 アクセル・ヘニー(ロジャー)、ニコライ・コスター・ワルドー(クラス)、ユリエ・R・オルゴー(ロッテ)
監督モーテン・ティルダム

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