たとえば次のような記事があるとしましょう。
ここでは事実だけを書いてます。 しかしこれだけでは読者が何の感想も抱かない。 各スポーツ紙の記者は、「この新聞記事は面白い!」と読者に思わせるため、 ちょっとした飾りをします。 飾りのつけ方には二種類あって、好意的な書き方と、 悪意のある書き方です。
宮崎で強化合宿を行っていた日本代表候補三十三名から、 二十八名の本選代表選手が選出された。 時期的な事もあり調整に苦心している山井、 故障を抱え実力を十分出せるか不安のある浅尾・大島・村田は大事を取って選抜から外れ、 走りに重点を置くか長打力を重視するかで最後まで検討を重ねた結果、 チーム方針として長打力を選択、 走りのスペシャリストの聖澤を外すという苦渋の選択となった。
宮崎で強化合宿を行っていた日本代表候補三十三名から、 二十八名の本選代表選手が選出された。 練習試合でメッタ打ちをくらい調整遅れが明らかな山井、 一向に調子の上がる気配のない浅尾、病み上がりの大島、 合宿中に負傷してアピール出来なかった村田、 総合力で劣る聖澤がサムライジャパンから落選した。 はい!随分印象が違いますね! 起きてる事象は一緒なんですが、書き方によって随分イメージが変わるものです! 前者は「彼らは代表にふさわしい能力の持ち主だが、 チーム事情で外れざるを得なかった」って印象を与えるし、 後者は「期待に応えることの出来なかった能力のない連中が切られた」ってイメージです! 報道というのはこのように、 書き方によって読者に与えるイメージを操作し、 ネガティブにもポジティブにもするんですね! で、スポーツ新聞やファッキンゴシップ系雑誌はどっちの書き方を好むかというと、 俄然ネガティブ、悪意のある記事を書きたがるんです! 読者は刺激的でネガティブなものを求めているのです! しかしこれだけでは新聞の売り上げは伸びません。 もっともっと刺激的な、読者に印象的なスパイスを入れないといけません。 「好意的な記事」にスパイスを入れても別に何にもならないので、 「悪意のある記事」にスパイスを入れていきます。 読者が求めてるのは「陰謀」や「トラブル」なのです! 読者のニーズに応えるのがマスコミの仕事! トラブルがないならメディアの力で(たとえデッチ上げでも)トラブルを作らなくては! 読者は刺激を求めてるのです!
はい、いい感じになってきました!(このネタで2ちゃんねるにスレが四つは立ちますよ) ネットで話題になって、新聞の売り上げもあがって、ウハウハです! 「チーム関係者」に取材なんてしてませんが、「こういうことを関係者が言ったら面白いな」 と思ったことを適当に想像して書けばいいんです! どうせ誰も後追い取材なんてしません! 「関係者」が誰かなんて誰も追及しないから架空の人物でいいんです! みんなやってることだから、業界の暗黙の了解です! ひとつ嘘をついたらもう二つつくも三つつくも一緒です。 いっそ全部嘘でいいんじゃないですか。 大事なのは話題性と新聞の売り上げです! 事実かどうかなんて、どうもでいいんです!
立浪氏といえば、「ミスター・ドラゴンズ」と呼ばれ、今季限りでの退任を表明している高木監督の後を受け、 次期中日監督の最有力だ。 来年、二〇一三年のシーズンを見据え、 来たるべき立浪ドラゴンズの主力である浅尾・大島らをWBCなんかで潰すわけにはいかない。 今回の人選は「立浪コーチの入れ知恵ではないのか」と事情通は語る。 「無理してWBCに出場して、 故障でシーズンを棒に振るなんて馬鹿馬鹿しいですからね。 立浪は星野監督ルートで山本浩二監督に顔が利く。 浅尾・大島に無理をさせないため、 立浪コーチが山本監督に代表から外すように進言したんですよ」 と、“裏の事情”を説明する。 WBC代表選考の裏で、中日の来季のペナント奪取のための計画は着々と進んでいるのだ。 もうここまできたら「事実」なんて何処にもありません! でも野球ファンってバカだから信じるのです! こんな記事でも! ことほど左様に報道というのは怖いものです。 記者の書き方ひとつで、読む人の印象は三百六十度、 どの方向にも移動するし、読者は「新聞が書いてることだからウソなわけはない」と思い込むのです。 ま、「事実はどれか」「想像で書いてるところはどれか」 に気をつけて読んでいれば騙されることはまずないですが、 普通の人は「新聞が読者を騙すわけない」と言う前提で記事を読むので、 何の疑問も抱かずコロリと騙されるのです (一番信じていけないのは「関係者」のコメントです!) (「関係者」って言ったら、その記事を書いてる新聞記者そいつだって「関係者」ですからね) (自分が言ったこと、思ったこと、デッチあげたことを 「関係者」の発言と言い張ることだって可能なのです!) (つか「関係者」って出てきたら九割はその記事書いてるそいつの発言ですよ) (と、関係者が言ってました)。 新聞記者だって俺たちと同じ普通のサラリーマンですよ。聖人君子ではないし、 面白い記事を書いて給料が上がるのならウソだってつきます! (俺たちがウソつきであるように、新聞記者だってウソつきで不思議はないのです!) (「俺たち」って言うな!息を吸うようにウソをつくのはお前か上杉隆だけだ!) (そうですね!) 『ニュースの天才』はそんな話です。
(2013.02.21)
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原題 | Shattered Glass |
邦題 | ニュースの天才 |
公開/製作 | 2003年/アメリカ |
出演 | ヘイデン・クリステンセン(スティーヴン)、ピーター・サースガード(チャック)、スティーヴ・ザーン(アダム)、ハンク・アザリア(マイケル) |
監督 | ビリー・レイ |