ま、映画だから一つや二つ、 三つや四つ、五つや六つ、十や二十のウソ・誇張・妄想・ミスリードはあります。 9・11のテロ後に容疑者のサウジ人家族がまんまとアメリカ国外に脱出できたのは、 サウジの王族と商売上の付き合いがあったブッシュが便宜を図ったとか、 イラク戦争ではホワイトハウス関係者が重役をしている会社が大儲けしていて、 金儲けのために戦争を長引かせてるとか、 そのあたりはマイケル・ムーア監督の想像でしかありません。 この映画で挙げられてるの数々の“ブッシュに対する疑惑”について、 マイケル・ムーアに 「証拠はあるのか?」と聞いたら「ない」と答えるでしょう。 で、僕は最近DVDで鑑賞した『八ツ墓村』(1977年)を思い出したんですね。 金田一耕助を渥美清、 凶悪殺人鬼の多治見ヨウゾウを山崎努が演じているやつです。 (TOKYO-FMの平山夢明さんと京極夏彦さんのラジオ番組の『このヨウゾウがすごい!』 というコーナーで紹介されてました!) (そんなコーナーないですが!) 『八ツ墓村』の終盤、金田一探偵が真犯人を特定し、 その推理を淡々と語るんですね。 そして金田一の説明が終わったあと、村人がこう質問するのです。 「金田一さん、殺人の動機や方法は分かっただが、証拠はあるのけ?」 すると渥美清の金田一探偵は、こう言うんですね。 「そんなことより」 「そんなことより」!? もしかして、証拠ないの!? ぜんぶ推測と状況証拠だけかよ! 物的証拠見つからなかったのかよ! どういう事だよ金田一! 今まで何してたんだよ!京都まで行って!観光旅行かよ! 殺人は止められない、証拠は見つけられない、 岡山の山奥まで何しに来たんでしょうこのモジャ頭。 そういえば僕はこれ子供のころに一回だけ観たんですが、確かそのときも 「なに言ってるの金田一?」 って思った記憶があります。 証拠もなしに「犯人はこいつです」って、おまえは毛利小五郎か! (このころ毛利小五郎いませんが) (そういえば『八ツ墓村』って戦国時代の毛利一族と尼子一族の争いに因縁があるんですよね) (だから金田一は毛利小五郎のようなダメ探偵に!?) (たたりじゃ!毛利家のたたりじゃ!) 思うに『華氏911』のマイケル・ムーアは、 『八ツ墓村』の金田一探偵と同じ境地に至ったんだと思います。 ブッシュの悪事の数々にはこれといった証拠はないのだけれど、 「そんなことより」! そんなことより、大事なのはいま何が起きているのか、これから何が起ころうとしているのか、 取り返しのつかない事になる前に、最悪の事態を防がなくてはいけない! 八ツ墓村でこれ以上死人が出ないように! ブッシュのせいでこれ以上被害者が出ないように! (金田一防げませんでしたが!)(ダメじゃん!) (マイケル・ムーアも防げませんでしたが!)(ダメじゃん!) マイケル・ムーアは映画で現政権を批判する事により二〇〇四年の大統領選挙でのブッシュ再選を阻止しようとしましたが、 出来ませんでした。 そして戦争被害は拡大し、世界経済は崩壊しました。 このときのアメリカ人には、この映画を見ても、 「まだ戦争も終わってないのに批判するのは早い、しばらく見守ってやろうじゃないか。 ブッシュはよくやってると思うよ」 って優しい人が大勢いたんですね。 「批判するより温かい目で見守ってあげよう、今の政権はよくやってるよ」 と言って、被害を拡大し取り返しのつかない事態になってしまうことは、 政治に限らずたくさんあります。 (なんでや!今モリミチの話してないやろ!)
(2013.01.10)
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原題 | Fahrenheit 9/11 |
邦題 | 華氏911 |
公開/製作 | 2004年/アメリカ |
出演 | マイケル・ムーア、ジョージ・W・ブッシュ |
監督 | マイケル・ムーア |