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サトヤス |
「…球団から現金はもらわないんですか?それじゃ外に出たとき困るんじゃないですか?」 |
鶴田 |
「円にも交換できるよ。打者はヒット1本打ったら1万ぺリカを円に交換できるし、
ピッチャーは三振1個取るごとに5000ぺリカを円に交換してもらえるんだ。
その他、活躍に応じていろいろ設定があって。とにかく働けば働くほど円に換金してもらえるんだよ」 |
島崎 |
「金本さんなんか今年、すごかったですよね1000万ぺリカくらい換金したんじゃないですか?」 |
サトヤス |
「ちょっと待ってください。換金出来なかったぺリカの余りは、どうなるんですか?
金本さんて年俸1億5000万…ぺリカ、ですよね。1000万ぺリカを円に換金して、残りは?」 |
鶴田 |
「別に換金しなくたってぺリカはぺリカだよ。翌年に持ち越しって事になるのかな。
外で使えないのは不便といえば不便だけど、
球場内での買い物には不自由しないし、自分が活躍すればいいだけだしね」
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サトヤス |
「それ、球団に騙されてますよ! 金本さん、実質1000万円しかもらってないんですか年俸!?」
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鶴田 | 「人聞きの悪いこと言うなよヤスユキ。 球団が俺たちを騙すわけないじゃないか」 |
島崎 |
「江藤さん、FAで移籍しちゃったから、何億ぺリカか換金できないまま紙クズになったんだよね。
ほんと、馬鹿だなあ。最後まで悩んでいたみたいだけど、結局今まで稼いだぺリカをドブに捨てたんだから」 |
サトヤス |
「それ、江藤さんの判断が正しいって!ヒット1本1万円ぽっちじゃ、いつまで経っても年俸全部換金できないじゃないですか!」 |
鶴田 | 「おかしなことを言うなあ」 |
島崎 |
「変なこと言うなよ、ヤスユキ。たとえば年俸2億円なら、2万本ヒットを打てば全部換金できるじゃないか。
こんな簡単な計算も出来ないのかよ。アハハハハ」 |
鶴田 | 「そうだそうだ、小学校のかけ算だぞ。アハハハハ」 |
サトヤス立ち上がり、球場の外へ向かって歩き出す。
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サトヤス |
「ちょっと、球団事務所行ってきます」
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サトヤス、憤懣たる表情で球団幹部の部屋へ乗り込む。
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球団幹部 |
「やあ、キミが佐藤君か。待ってたよ」 |
サトヤス |
「契約のお話の前に、お聞きしたいことがあるのですが」
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球団幹部 |
「ん? 何だい?」 |
サトヤス |
「ぺリカって何ですか?」
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球団幹部 |
「ギクッ!…き、きみ、まさか、ウチの選手と会ったのか?」 |
サトヤス |
「ぺリカって何ですか?」
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球団幹部 |
「…えーと、あのだねえ…。オイ!」 |
突如部屋のドアが開き、黒い服の男たちが数名ドヤドヤと入ってくる。 そしてサトヤスの口に 液体をしみこませたガーゼを押し付ける。
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サトヤス |
「あうっ…」
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サトヤス、気が遠くなり、そのまま意識を失う。 | |
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暗闇。赤い拘束服に手カセ足カセをかけられたサトヤス。
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サトヤス |
「………ハッ!…ここは一体…?うわっ!何をするっ!やめろっ!ギャッ!
その機械仕掛けのヘルメットをオレにかぶせるのは止めろおっ!
ああっ!やめろ!やめてくれえっ!ギャアアアアアアアアッ!!」
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暗闇。
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グラウンドの一角でカープのユニフォームを着た鶴田と 島崎がキャッチボールをしている。 そこへつかつかと歩いてくる真新しい赤いユニフォームの男。サトヤスだ。
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鶴田 |
「行くぞー、島崎ー」 |
島崎 |
「はーい、鶴田さん!…あれ?ヤスユキじゃん?」 |
サトヤス |
「ちわッス!鶴田さん、島崎さん!お久ぶりッス!」 |
久々の再会に談笑する3人。
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鶴田 |
「あー、ちょっとノド渇いたな。島崎、球場の売店でジュース買って来いよ」 |
島崎 |
「そうですね。じゃ、買ってきます!」 |
サトヤス |
「あ、そんな!島崎さんここで休んでくださいよ。ボクが行くッスよ!」 |
島崎 |
「ん、でもお前、ぺリカ持ってないだろ?」
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サトヤス |
「やだなあ。持ってますよ!こないだ、球団と正式契約したんで。
手付けに10万ぺリカももらっちゃいましたよ!」
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鶴田 |
「10万ぺリカも!?そいつはすごいな」 |
サトヤス |
「本当、いい球団ですよね!広島カープ!
カープのためにボクは死ぬまで働きつづけるぞ!」 |
島崎 |
「頼もしいな、ヤスユキ!」 |
鶴田 |
「お互い、頑張ろうぜ!」 |
サトヤス |
「もちろんですとも!こんな幸せな気分で野球をやれるのは生まれて初めてですよ!
よおし、頑張るぞう!ハッハッハ!」 |
鶴田 |
「ハッハッハ!」 |
島崎 |
「ハッハッハ!」
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鶴田 |
「ところで、ヤスユキ。確か1週間くらい前に、お前、俺たちの話の途中に突然立ち上がって球団事務所に行ったよな?
何かあったのか?」 |
サトヤス |
「え? そんなことありましたっけ? んー、実は、ここ1週間くらいの記憶、全然ないんですよ。ハッハッハ!」 |
鶴田 |
「何だい、忘れっぽいやつだなあ。ハッハッハ!」 |
島崎 |
「このオッチョコチョイめ!ハッハッハ!」 |
3人の明るい笑い声は、日南の空にいつまでもこだましていた。
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