戯曲
ある日のサトヤス
(前編)

1.広島市民球場

 秋季練習。カープナイン達が練習している。響く打球音、キャッチボールの音。

 グラウンドの一角でカープのユニフォームを着た鶴田島崎がキャッチボールをしている。 そこへつかつかと歩いてくるス―ツの男。サトヤスだ。

鶴田  「行くぞー、島崎ー」
島崎  「はーい、鶴田さん!…あれ?ヤスユキじゃん?」
サトヤス  「ちわッス!鶴田さん、島崎さん!お久ぶりッス!」
島崎  「聞いたぜ?今度カープに来るそうじゃん。またよろしく頼むぜ!」
サトヤス  「いやあ、まだ正式決定ってわけじゃないッスから。 今日、これから球団事務所にお伺いして、いろいろ話聞くんですよ。 “球場にはまだ行くな”って言われてたんですけど、何か近くまで来たら、無性に2人の顔が見たくなって」

 久々の再会に談笑する3人。


2.広島市民球場

サトヤス  「広島の練習ってキツいそうじゃないですかあ。どうッスか?やっぱ大変ですか?」
鶴田  「あー、心配しなくていいよ、最初だけ最初だけ!」
島崎  「そのうち馴れるよ。自分でアドレナリンとか出せるようになったら」

サトヤス  「…え?」

鶴田  「そうそう、アレ覚えれば、疲れとか気になんなくなるしね!」
サトヤス  「…アドレナリンって、何スか?」
島崎  「え?知らない、アドレナリン?  脳内麻薬だよ」
サトヤス  「は?」
島崎  「脳の中に分泌して、感覚が麻痺して気持ちよくなってさ、 痛いのか疲れとか、全く無くなっちゃうんだ。 ランナーズ・ハイってあるじゃん? 肉体が限界を超えると、逆に気持ちよくなるやつ」
サトヤス  「…それって自由に出したり出来るもんなんですか?」
鶴田  「うん。何度か死地をさまよえばね。」
サトヤス  「………」

 2人が何を言ってるのか分からず、戸惑うサトヤス


3.広島市民球場

鶴田  「あー、ちょっとノド渇いたな。島崎、球場の売店でジュース買って来いよ」
島崎  「そうですね。じゃ、買ってきます!」
サトヤス  「あ、そんな!島崎さんここで休んでくださいよ。ボクが行くッスよ!」
島崎  「ん、でもお前、ぺリカ持ってないだろ?」
鶴田  「そうそう、お前ぺリカ持ってないんだから、ここにいろよ」
サトヤス  「…ぺリカ?
鶴田  「広島の通貨単位だよ。ここじゃぺリカが無ければ何も買えないからな」
サトヤス  「それ、どうやって手に入れるんですか?」
島崎  「年俸でもらうんだよ」
サトヤス  「はい!?」
島崎  「たとえば前田さんなら、今季の年俸は2億1千万ぺリカ。うらやましいよなー。俺も絶対復活して、 高給取りになってやるぞ!」

 サトヤス、状況が把握出来ない。


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