【あらすじ】
「サバの刺身なんて食えたもんじゃない」という雄山に対し、 山岡が“幻のサバ”を用意し、その芳醇な味で雄山を唸らせる。 雄山はサバの味には触れず、「なんだこの器はっ!」と怒りを器にぶつけるのだった。 (単行本第2集/第7話『幻の魚』より)


【解説】
雄山の怒りはもっともだ。 たとえばもし、居酒屋に行って生ビールを頼んだとしよう。 そのときにビールが「紙コップで」出てきたら客はどんな反応をするか?
「なんだこの器はッ!!」
と誰だって怒り出すだろう。
コーヒーや紅茶だって同じことだ。 それぞれにはそれぞれ“合った器”というものがあり、器も味の一部なのだ。
飲む人・食べる人の気持ちになれば分かることだが、そんなことにも気が回らず、 普通の皿に“幻のサバ”を出してしまった山岡は、器に配慮が無さ過ぎた。

器に配慮がないのは、人に配慮がないのと同じである。 山岡の「作れば作りっぱなし、美味けりゃいいだろ」的な身勝手さと、 「器に気を配ることは、人に気を配ること」という雄山の人間の大きさが伝わってくる1シーンである。

【感想】
コップといえば、こんな命題がある。
「検尿に使ったコップを、十分に消毒・殺菌したとして、そのコップでジュースが飲めるか?」
という問いだ。
消毒・殺菌は完璧である。味に何ら変化がありようはずがない。 しかし、そのことが頭で理解できていても、普通の人は「飲めない」と答えるはずだ。
器というのは、味の一部なのである。