- 第一の書 -

『悪妻だから夫はのびる』 (2)
〜男を奮い立たせる法〜

1986.11.30刊/光文社/落合信子・著
悪妻だから夫はのびる
 前回の続き。

- 解説編(続き) -


 そして、本編はいよいよ信子・博満の“夜の生活”に突入する!!


カバー推薦文より(女優・富士真奈美)

 「こんなに全部書いちゃって、旦那様に怒られない?」
 読み終わって、思わず信子さんに訊ねた。
 「もちろんよ。そこがあの人のイイとこ。 俺サマがどんな亭主か、どんな人間か、なかなかよく書けてるって。 おもしろがってたわ」
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ピエロ、退場をうながす

    (4) 「これがネグリジェか…。フーン、ツルツルして気持ちいいんだなあ…。オオッ、これは透けて見えるでねえか!おっかあ!」

    (博満・信子、新婚時代)

     とは言うものの、私は、落合と結婚してしばらくは、寝室のことにはまるで無頓着でした。
     いまではその日の気分によって、外国映画に出てくるような、レースのついたネグリジェや、ときには純和風で 浴衣を着たりしていますが、結婚してしばらくは、落合のお下がりの、 しかも“6番”(落合選手の背番号)と書かれたアンダーシャツを着て寝ていたのです。

     どうしてこんなことになったかというと結婚直後、 キャンプに持って行く荷物の整理をしながら落合が私に、こう言ったのです。
     「オレのアンダーシャツな、おまえならケツまできてあったかいから、これを着て寝ろ」
     落合にしてみれば、アンダーシャツを着た私は、自分より年下のように、 かわいらしく見えるらしいのです。
     ですから、落合は、
     「おっかあ、これ着てろ。おまえには、これが、ほんと似合うでな」
     と言うのですが、“6番”と番号が入ったシャツが私に似合うはずなどないのです。

    (中略)

     そこで、私は、思ったのです。
     どこの夫婦だって、することは同じ。だったら、 どこかで差をつけなければいけない、と。
     デパートの婦人肌着やナイティのコーナーに行ってみると、目を見張るようなきれいな物があります。 レースの手の込んだものとか。
     それを、落合が身に着けたりすれば“変態”ということになりますが、 女の私が見に着けるぶんにはいっこうにかまわないのです。 たとえ、それが何万円もするものであっても。

     一週間近い遠征から落合が帰った日、私が買ってきたばかりのネグリジェを着てみせると、
     「ど、どうしただ、おっかあ!なにかあっただか!?」
     と、落合は、一瞬後ずさりしましたが、気を取り直すとネグリジェに手を触れてみて、

     「これがネグリジェか…、フーン、ツルツルして気持ちいいんだなあ…、 オオッ、これは透けて見えるでねえか!おっかあ!」

     と、満更でもない様子でした。

 “どこかで差をつけなければいけない” のであれば、 「寝巻きにロッテのアンダーシャツを嫁が着ている」 時点で、既に差別化は十分だ。

 ロッテのアンダーシャツの資料がないので、 先日テレビ出演された信子夫人の ユニフォーム姿を参考に載せてみる。 こんなもんだと想像しよう。アンダーシャツではないが、 大体の雰囲気はつかめよう。


マダム・ドラゴンズ マダム・ドラゴンズ
まあ大体こんな感じで寝室にいるわけだ ↑


    (5) 「オレ、この家に火をつけるぞ!本当にやるぞ!」

    (博満・信子、新居に引越ししてしばらくの出来事)

     いまの××区△△の家に越してきたのは、おととし(五十九年)の十二月九日、 つまり落合の三十一回めの誕生日でした。(伏字はsato23によるもの)
     それからしばらくして、こんなことがありました。
     その日は、朝のうちに、落合と私の間でちょっとしたいさかいがあって、 私は、むしょうに虫のいどころが悪かったのです。

     (中略)

     悪ノリした私は、酔いも手伝って、水道の水で満タンになった ナポレオンのボトルを、吹き抜けのところから落としてやったのです。
     これには、さすがの落合も 「なんだ、どうしたんだ?」 と飛び出してきました。

     (中略)

     自分がいちばん大切にしているナポレオンを割られたと知った落合は、 それまで私が見たこともないような、ものすごい形相で、階段を三段飛びに、 私の方へ向かってきたのです。

    ものすごい形相で向かってくる落合親分

    ナポレオンを割られ、怒りに震える落合親分 ↑

     私としては「キャーッ!」と叫んで寝室に飛び込み、ドアを押えるのが精一杯でした。
     もちろん、女の私がいくら一生懸命押えたからといって、男の、 それも“ポパイ”とあだ名される落合に勝てるはずはありません。
     ドアの向こう側に落合の力を感じたとき、私は、自分のしたことを深く後悔しました。
     普段は、多少のことを言われたり、されてもヘラヘラしている落合のような人間は、 本当に怒らせたら最後なのです。私は、まじめに、殺される、と思いました。
     ドアは、あっけないほど簡単に押し開けられ、ヌーッと落合が入ってきました。
     私は、後ずさりしながら、ガタガタ震え、いまにもオシッコをちびりそうでした。

    ガクガクブルブルする信子夫人

     落合は、私の右腕をギュッとつかむと、大声で、
     「おっかあ、座れ!?」
     いよいよ手討ちにされるんだな、と覚悟を決めました。
     すると、落合は、ひどく思い詰めたような表情で、
     「オレは、おまえといっしょにやっていこうと思ってこの家を買っただぞ!それを、おまえは…」
     「だって…」
     「だってもへったくれもねえ!おまえがこれだけうちで暴れるなら、ようしっ」
     と言って、私をキッとにらみつけると、

     「オレ、この家に火をつけるぞ!本当にやるぞ!」

     参考までに言いますと、落合は、血液型がOで、ヘビ年(昭和二十八年生まれ)なのです。
     で、私は以前、O型でヘビ年生まれの人が「死ぬ」と言ったときに、 周りの人間が「死ねるものなら死んでみろ」と言ったところ、 本当に実行してしまった、という話を聞いたことがあるのです。 それもふだんは落合みたいなおとなしいタイプだったとか。

 親分…ナポレオン割られたくらいで…。

 いや、しかし、同じ酒飲みで、理屈っぽいと人によく言われる私には、 親分のこの行動は分かる気がする。
 酒飲みにとってアルコールはガソリン、無いと動かないもので、 それがナポレオンならハイオクなのだ。
 それを、純米吟醸と上善如水の味の区別も出来ないような女が、 夫婦喧嘩の勢いで割ったとしたら、私も烈火のごとく怒り、
 「オレは酒を割られたことを怒ってるんでねぇ! 酒によって床が水びたしになった事に腹を立ててるんだ!」
 などと「はい?」な事を言い出し、
 「この床がいらねえなら、今からこの床をはがす!」
 とヤク中みたいなテンションで、床をベリべりと剥がし始めたかも知れない。

 信子夫人は「落合は、2人の新居で暴れたことを怒っているのだ」 と好意的に解釈しているようだが、違う。
 落合は純粋に 「酒を割られたから」怒っているのであり、 そのあとの言い分は全て後付けの屁理屈である。


東北弁で説教するウォン・レイ


 男には「たとえ嫁でも、割ってはいけない酒」というのがあるのだ。 落合にとってはそれがナポレオンだったのだろう。 ちなみに私の場合はブッカーズで、もし割られたら家に火をつけるだろう。

 何にせよ、オフのテレビ番組で谷繁が 「親分は見かけによらず短気。ものすごい短気」 と言っていたが、本当のようである。 『行列に出来る法律相談所』にもし行ったらば、4−0で有罪の短気さだ。


    (6) 「この色は、オレにはよう似合わん。茶色はよう似合わんぞ。おっかあ。こんなネクラな格好じゃ、オレ、恥ずかしくて大阪の街を歩けねぇだ!」
    (7) 「おっかあ。オレな、こんどは赤いズボンとかそういうのがいいだ」

 さて、ページ・バランスの都合から、上記(6)(7)の解説は省略する。
 まあ要約すれば、落合親分のファッションセンスは 立浪レベル であり、 赤ズボンを好んで着用する人などこの世には立浪と「テツ&トモ」の左の方くらいしかいないと思っていたが、 もう一人いたということだ。


    (8) 「バカ言うでねぇ!病みつきになったらどうするだ。ああいうところは病みつきに…いや、いや、 そんなこたァどうでもいいだ」

    (博満・信子、アツアツの結婚生活)

     私は、落合が遠征先から電話をくれたときに、たとえお風呂に入ってきれいにしていても、
     「ヒロ、私、ヒロが出かけてからずっとお風呂に入ってないんだ」
     と言うわけです。
     すると、落合は、
     「そうか。おっかあよ、オレ、帰ったら背中流してやるでよ」
     と言うので、私は、重ねて、
     「ヒロ!私、アカだらけなんだよぉ」
     「おお、わかった。オレ、洗ってやるでな」
     ここで、もう一つダメを押すように、
     「でも、いいなあ、ヒロは。 ソープランドとかそういうところへ行って洗ってもらって…。 泡のお風呂で、いっぱいお金払って。私も洗ってもらいたいんだよね。 行ってくるか、そういうところに!」
     「 バカ言うでねぇ!病みつきになったらどうするだ。ああいうところは病みつきに…いや、いや、 そんなこたァどうでもいいだ。それよりおっかあ、 オレが洗ってやるで、おとなしく待ってろ、なっ、わかったな!」

     この言葉どおり、遠征を終えた落合は、脇目もふらず真っ直ぐ帰ってきて、 私の背中を流してくれるのです。

 お、親分!! そうなんですか!?
 病みつきになった んですか!??


    (9) 「ソープランドが浮気かよ! 性処理ならいいじゃねえか…」

    (信子、博満のソープ癖をチクリ)

     浮気の話が出たついでといってはなんですが、以前私は、落合に、
     「ちょっと、ヒロ、私が浮気したらどうする? キミは、遠征先とかでソープランドへ行ったりしてるんでしょう。ねぇ、どうなの?」
     と聞いたことがあるのです。
     すると、落合は、

     「ソープランドが浮気かよ!」

     と言って開き直ったのです。
     私の知る限り、男の人というのはこういう場合、「いや、まあ、その…」とか言って、 笑ってごまかすのが常です。 そこへいくと、落合は、いい根性をしてるのです。 こいつはたいしたもんだ、とさすがの私も、これには脱帽です。
     さらに、落合は

     「性処理ならいいじゃねぇか…」

     とこうきたのです。この男は、 ひょっとすると私の想像をはるかに超えた大物かもしれない、と私は、 ますます脱帽したのです。

    性処理ならいいじゃねぇか…

    「性処理ならいいじゃねぇか…」

 性処理!?
 親分の口から「性処理」!?
 お、親分! 親分も現役時代は 夜の三冠王 だったんですね!!

 私は、落合という人間はもっと堅物だと思っていた。
 「練習は人の見てるとこでやるもんじゃない」
 「現役時代のオレは、練習時間が終わったあと、宿舎に帰ってから一人でバットを振ったもんだ」
 とは落合親分はよく言うが、まさか 地方遠征ではそっちのバットを振っていた とは!
 しかも、それを嫁に指摘されて逆ギレ!!

 そう考えると、落合親分が札幌遠征の直前にタカマサをナゴヤ球場に幽閉、 ススキノに連れて行かなかったのは、親分にとって “テリトリーを守った” というのが案外、真相かも知れない。


 なお、この話には続きがある。

    (「…と私は、ますます脱帽したのです。」の続き)

     と同時に、落合がそこまで開き直って −まかり間違えば、私に首を絞められて半殺しにされかねない危険を顧みずに− 言うからには、ソープランドというのは、さぞやおもしろいところだろうと思った私は、 それをわが家でやってみようと思い立ったのです。



    (中略)




     この一件以来、落合は、ソープランドの“ソ”の字も口にしなくなりました。 行くのをとがめられるより、 「ソープランドごっこしよう」 の一言が、よほどこたえたようです。

 全てを書き記すというのは無粋というものだ。

 (中略)の間に何が起こったのか、それは、読者諸君の想像に委ねることにしよう。

真相は、読者の想像力の中に。

「ソ…ソープランドごっこ…?」


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