井上、スタメンを数字でアピールする。


 この日、オープン戦が終了した。
 全体的な打率が悪いのはいつもの事だが、奇怪な現象がひとつ、起きていた。
 井上の打率が、よくないのだ。

 井上はオープン戦21試合中、15試合に出場(うちスタメン11試合)し、 41打数11安打、打率.268と、本来ならば
サンタの次に見せ場であるオープン戦
を、意外に平凡な数字で終えたのである。

 「どうした、井上!何処か悪いのかッ!?」


.268…。井上にしては低いな…。


 そんな中日ファン2億5000万人の心配の声をよそに、 この数字には井上のおそるべき“作戦”が隠されていたのである!!

オープン戦・井上の打撃成績
3/6 ●西 4番 一塁 一ゴ 投ゴ 遊ゴ
3/7 ●ロ 7番 DH 投ゴ 三振 右安
3/9 ●オ 6番 一塁 三振 右安
3/10 ●近 7番 DH 二ゴ 死球 左安 中飛
3/11 ○読 3番 一塁 投ゴ 四球 三振 右安 左飛
3/13 ○オ 3番 一塁 一ゴ 右安 三ゴ 四球 二ゴ
3/14 ○オ 3番 一塁 三邪 左飛 二ゴ 左安
3/15 △広 3番 DH 三振 一ゴ 中安 一ゴ
3/17 ○西 4番 DH 一併 左2 一ゴ 右2 右飛 投ゴ
3/18 ●日 4番 一塁 三振 三振
3/21 ●ヤ 守備 一塁 捕邪 一ゴ
3/23 ○神 代打 ---- 左飛
3/24 ○広 代打 ---- 二ゴ
3/25 ●広 代打 ---- 右2
3/28 △横 代打 ---- 四球


雄山、井上のからくりに気付く。



 1打席目の打率、.074。



雄山、井上のからくりに気付く。



 2打席目以降の打率、.385!


 そう!去年まではいくらオープン戦で数字を出しても、結局は右左で変えられてしまいレギュラーを獲れなかった井上だが、 今年は

 「1打席目は苦手なんです!」

 と逆一芸をアピール、 長所を強調するのではなく、短所を強調するという“逆転の発想”で、 スタメン使いを直訴したのだ!!

雄山、井上のからくりに気付く。

 昨年、当時の元締めが、その選手が「バントが不得手なことを知らなかった」ことで、 無理な送りバントを強行させ失敗、負けたゲームは数知れない。
 どの選手には、何が出来て、何が出来ないのか。 それを本人が自覚してるか、してないか。 ベンチが把握してるか、してないか。それによって勝利への行程は大きく変わる。

 「井上は代打では使えない」

 そんな
星野時代からみんなが知っていて、山田だけが知らなかった事実
をあらためて証明するため、 “既に証明されてることの証明”のために、昨年も多くの公式戦を無駄にした。
 そして今年、同じことが再び繰り返されぬよう井上は、 オープン戦でそのデータを新監督に提出したのである!!

 「このデータから分かるように、俺は目が馴れてから打ち出すタイプ、つまりスタメン向きなんです!!」

 まさにデータ野球を駆使する“頭脳派”らしい井上、ついでに次期選手会長の座もアピールだ!!


雄山、井上のからくりに気付く。

- 崖っぷちの一樹 -