井上、4番に大抜擢!


 ざわ…ざわ…ざわ…。
 ナゴヤドームに異様な空気が立ち込める。

 “四番育成”をキーワードに始まった落合新政権。
 オープン戦も地元・名古屋に戻って2試合目、人々はその 「新・四番」 に驚天動地の名前を見たのである!

 スターティング・メンバー発表!!

1 井端
2 荒木
3 大西
4 井上
5 オチョワ
6 関川
7 渡邉
8 谷繁
9 森野
P   ドミンゴ


4 井上


新・四番に井上が!!

 落合親分が挙げた 新・4番候補 が次々と競争から脱落していく中、 最後に4番のバッターボックスに立ったのは、我らが井上だった!!

 ナゴヤドームのウグイス嬢が、嬉々として告げる!


「4番・ファースト、 我らが 井上」


歓声とも罵声ともつかぬ叫び!!


 湧き上がる歓声!

 カズキの名を呼ぶ!!

 球場のボルテージは 最高潮 に達した!!


第1打席・一ゴロ

第2打席・投ゴロ

第3打席・遊ゴロ

第4打席・なし





 …………。




 一般のお客さんには、一見、ただの3タコに見えたかも知れない。

 だが、
 ナゴドの目の肥えたお客さん
 は違っていた!

 「…違う。去年までの井上とは、明らかに違う!!」

 お目が高いっ、お客さん!



 そう!
 今日の井上は、三度も打席に立ちながら
 「内角低めを空振り三振」 も無ければ、 「置きに来たストライクを見逃し三振」 もないのである!!


 何という驚異的な進歩ッ!!


井上が…進化している!

ものすごい進歩だ!


 それも、飛んだ方向は一ゴロ、投ゴロ、遊ゴロ。
 引っ張り・センター返し・流し打ちと、右から左へなめるように打ち分けているのだ!

 これこそ!

 落合親分が現役時代、得意としていた広角打法の片鱗である!!

 「三冠・落合の真の後継者」は、 実は井上だったのだッ!!!!!



☆  ☆  ☆  ☆



 なお翌日、当然の事ながら、井上は7番に打順を下げられた。


しょんぼり

しょんぼり。

- 崖っぷちの一樹 -