ざわ…ざわ…ざわ…。
福岡ドームに異様な空気が立ち込める。
「どれが井上と？」
「あんデカイのがそうばい！」
「いいや、あれは中原用具係たい！井上はもっとゴジラ顔ばしようと！」
この日、
“将来の
（ダイエーの）
４番候補”
こと我らが井上を見に、
福岡ドームに集まった博多っ子が4万8000人
（ダイエー公式発表。実際の数字は3万2000人）。
ところが、
「観光部長としてつれていく」と落合親分が明言したはずの井上が、
昨日に続きこの試合も出ていない。どこにも姿が見えないのだ。
「落合はほんなこつ井上が出るばいいよったんかね？」
「間違いなか。この新聞見ようと！」
(2/25『トーチュウ』紙面より)
「落合がはっきりと言うちょるばい！」
「でも、おらんね…」
「おらん」
「井上がおらんかったら、試合も面白くなか」
「帰ろう」
「でも、バイトの方はどげんすっとね？」
「今日はもうリードしとうけん、よかろうもん」
バックスクリーン横、レフトスタンド側に座っていた学生バイト２人が、
メガホンを持って立ち上がった。その瞬間、
ダイエーのバッターが、何故か
とんでもない糞ボールを空振り
し、
「えっ！？」という表情で、遠く外野スタンドに目を凝らしたという。
その翌日。
(3/3『トーチュウ』紙面より)
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