井川、アクロバティック・スクイズ！ 　横浜にとっての今シーズン 初 の同一カード３連戦勝ち越し（中日に取っては負け越し）を許し迎えた、 首位・阪神との３連戦緒戦。 中日は２回、 ダメ弾になることがその瞬間に予想されるという、実に縁起の悪い谷繁の先制２ラン で２点をリードし、２−０で迎えた５回の表、阪神の攻撃だった。 　１死二三塁で打席に立ったのはピッチャーの井川。 井川は川上の２球目をスクイズ失敗し、ファウル。カウント１−１からの３球目。 　「もう１球、スクイズあるかな？」 　谷繁がサインを出す。 　川上がうなずく。 　川上、３球目、投げた！ 　三塁ランナースタート！ 　同時に井川はスクイズの構え！ 　そのときだった！！ 　顔面！！ 　川上の投げた球は、井川の顔面に一直線に放り込まれた 時速１４２キロの高速ビーンボール だった！ 　逃げろ井川！ 　 　次の瞬間！ 　井川はこのビーンボールを執念のスクイズ、しりもちをつきながら、起き上がって一塁に全力疾走、 本塁・一塁、オールセーフにしたのであった。 ヘタクソ谷繁！！ 一塁までセーフにすんなバカ！！ 　試合は、この井川の執念が阪神ナインにのりうつったか２対１０で阪神が圧勝。 　谷繁の先制２ランは、やはりダメ弾に終わった。

…これ、ブラッシュ・ボールじゃない？

そうだよ。

いいの？

よくないよ。顔面を狙った明らかなブラッシュ(故意危険球)。 スッポ抜けとかそんなんじゃない、狙って投げたね、あれは。 セ・リーグアグリーメント(合意事項)第39条 「投手の投球が打者の顔面 、頭部、ヘルメット等に直接当たり、 審判員がその投球を危険球と判断したとき、その投手は試合から除かれる。 頭部に直接当たった場合でも、審判員がその投球を危険球とまではいえないと判断したときは、 警告を発し、その後どの投手であろうと再び頭部に当たる投球を行ったときは退場とする。 危険球とは、打者の選手生命に影響を与える、と審判員が判断したものをいう。」

川上さんは退場にならないの？

ならないね。 　この規則はボールが頭部に 「当たった場合」 ってのが大前提だもの。 うまいもんだよ、バッテリー。 当たれば退場だけど、その代わり、井川をマウンドからおろせる。 逃げればスクイズ失敗→三塁走者憤死だもんね。

それって、汚くない？

いや、すごいと思った。 どっちかっていうとクリーンなイメージのある川上だけど、 勝利への執念を感じるブラッシュだったよ。 格下が格上に挑戦 するときは、これくらいの根性でぶつからないと。 　当たったらマジでシャレにならない けど、バッテリーは「井川がよける」と思ったんだろね。 でも井川はバカなのか、当てたね。こちらも上手かった。 プロ同士の、命賭けの勝負を見せてもらったよ。

あなたが谷繁を褒めたの、初めて見たわ。

谷繁は嫌いだけど、俺は褒めるところは褒めるよ。今まで 褒めるようなところが一つもなかっただけで。 　逆の立場だったら 　「相手キャッチャー、ぶっ殺す」 　だけどね。谷繁は自分がビーンボール喰らったときには「オッス！オラー悟空！」って向かっていくような選手だから、 ビーンボールの９割が故意 だって、分かってるんだろうね。 自分がそういうリードをするから。

あら。あなたは「フェアプレー推奨」だと思ってたけど。

スクイズはハイリスク＆ハイリターンだよ。 もしぶつかったら、それはよけなかった井川が悪い。 自分の選手生命より目の前の１点を取ったんだからね。 それをアンフェアというなら、 ビーンボールに対して曖昧な規定しかしていないルールブックが悪いんだよ。

…阪神ファンも「いいぞ井川！」なんて喜んでる場合じゃないわね。 危うく大惨事になるとこだったのに…。

馴れない首位を独走してるときはそんなもんだよ。 結果オーライで、途中経過なんか見えちゃいない。 そこに付けこむことが出来れば、今年の中日、おもしろいぞ。

阪神を叩く！？

圧倒的な強さを誇る阪神に勝ち越してるのは中日だけだからね。 うまくいけば、 ５位は死守 出来るゾ！

阪神だけに強くてもねぇ…。