架空証人喚問
この答弁はフィクションです。


 20xx年、とある国のとあるプロ野球チーム(架空球団)のフロントの一人が、シーズン途中から「あの選手を使え」「あの選手は使うな」と現場介入、思いつきの素人采配でチームを滅茶苦茶にした。船頭多くして船山を登る、方向性を見失ったチームは迷走し、順位は前年の2位から5位に転落。監督は「勇退」という球団発表で辞任したが、チーム低迷の根本的原因であるその幹部は球団に居座り、それどころか人事に関わる重要なポストに就いたのである。

 そしてその年のオフ、幹部は自分の好き嫌いで選手を追い出したり獲得したり、やりたい放題の人事でさらにチームを混乱に追い込む。そんなとき、求められ同じリーグの他チームの監督に就任した前監督が、講演会の席上で「私は辞めたのではなく、辞めさせられたのだ」と、辞任劇の“真相”を暴露した。これをきっかけに、幹部に「監督更迭疑惑」「中村さん“計画追放”疑惑」「左が足りないのに前田幸追放疑惑」「守るところもないのに山崎武遺留疑惑」「謎のマグワイヤ獲得疑惑」「森野えこひいき疑惑」など数々の疑惑が浮上、「疑惑のデパート」として国会で証人喚問される事となった。


監督更迭疑惑

--まずは前監督の更迭疑惑からです。前監督が、1月末に名古屋で行われた講演会で「私は辞めたんじゃない。辞めさせられたんだ」と発言していますが、これは事実ですか?」
    幹部: 前監督は自ら辞任を申し込んだんです。球団が「辞めろ」と言った事実はありません。
--遺留しなかったのは何故ですか?
    幹部: 辞めてもらった方が都合が、あ、いや、本人の意思が固かったので、遺留しませんでした。
--シーズン終了直後、島野ヘッドコーチが強く退団の意思を表明しましたね?
    幹部: はい。
--島野ヘッドの退団申し込みは受理しましたか?
    幹部: 遺留しました。
--どうしてですか?
    幹部: 球団にとってどうしても必要な人材だからです。
--前監督の退団申し込みは遺留しましたか?
    幹部: しませんでした。
--前監督は「60歳まではユニフォームを着ていたかったが、球団は遺留もせんかった」と後述しています。昨シーズン、チームが5位に終わった事への、形式的な辞意ではなかったのですか?
    幹部: 球団が「辞めろ」と言った事実はありません。
--球団はシーズン半ばで、水谷打撃コーチをクビにしましたね?
    幹部: 水谷コーチが神経的に参っている様子だったので、休養を勧めただけです。
--水谷コーチは前監督が頭を下げ、よそのチームから引き抜いたコーチです。それを前監督の承諾もなく、シーズン途中でクビにするのはどうなんでしょうか?
    幹部: 球団が「辞めろ」と言った事実はありません。あくまで休養を勧めただけです。
--監督の右腕をクビにするという事は、監督への辞任勧告と同じ意味ではありませんか?
    幹部: 球団が「辞めろ」と言った事実はありません。
--普通の人はそう受け取ります。
    幹部: 球団が「辞めろ」と言った事実はありません。


中村さん“計画追放”疑惑

--12月26日、球団は中村さんと二度目の契約交渉を行い、金額提示もしないまま、中村さんとの交渉を打ち切り、放出を決定しました。
    幹部: 中村が自分からトレードに出してくれと言ったのです。
--中村さんは「球団に、残留も移籍も君の好きにしていい、と言われた」と証言しています。「ショックだった」と。これは事実上の戦力外通告ではないのですか?
    幹部: 球団が「辞めろ」と言った事実はありません。
--金額提示を最後までしなかったのは何故ですか?本当に契約をする気があったのですか?
    幹部: 中村が複数年契約を要求してきたので、その交渉から先にしただけです。
--複数年契約の交渉はどうだったのですか?
    幹部: 物別れに終わりました。
--中村さんは昨年の契約更改で、当時の伊藤球団代表と「120試合出場で複数年契約」と約束を交わしたと言っていますが。
    幹部: 「複数年を要求するなら、120試合くらい出場してから」と言っただけで、契約を約束したわけではありません。
--口約束だから、平気で約束を破ってもいい、という事ですか?
    幹部: 約束したなら書類があるはず。書類がないんだから、そんな約束はしていない、という事です。
--球団は以前も門倉投手(現近鉄)との契約で、「10勝したらボーナス500万」という口約束をして、翌年の更改でスラッとぼけた前歴がありますね。
    幹部: 契約書に明記してない門倉が悪いんでしょう。書類がないんだから、そんな約束はしていないんです。
--複数年契約を蹴られた中村さんは、「自らトレードを直訴した」という事になってますが、これは違いますね。実際には球団が「好きにしていい」と戦力外通告を突き付けたわけです。
    幹部: 球団が「辞めろ」と言った事実はありません。
--会見で中村さんは、「前監督に成長した姿を見てもらいたいため、阪神以外のチームに移籍したい」と言いました。
    幹部: いい心構えですね。
--しかしその後、中村さんは前監督との電話で「(球団に)阪神にだけは行くな、と言われた」と告白しています。
    幹部: …。
--どうして「阪神以外」という条件をつけたのですか?
    幹部: 記憶にありません。というか、覚えてません。
--前監督へのイヤガラセですか?
    幹部: 覚えてません。
--それとも、噂されるように「谷繁入団が決定したら中村さんを横浜に売却」という裏取り引きがあったのですか?
    幹部: 覚えてません。
--谷繁捕手に、中村さんとの競争なしで「レギュラー確約」をしたのは本当ですか?
    幹部: 覚えてません。
--あなたは疑惑のデパートと言われていますが、疑惑の総合商社ですね。「ど忘れ禁止法」を適用したいくらいです。(中日新聞以外の)新聞や(月刊ドラゴンズ以外の)雑誌で既に報道され、前監督の証言も取れている事実関係に、どうして嘘をつくんですか。
    幹部: う、嘘つきは撤回してもらいたいっ!!
--自分の独裁政権を作りたい、現場に介入したい。そのために前監督を切り、前監督の後継者と言われる中村さんを追い出したんでしょう? そして選手やファンに影響力のある二人が、他球団で一緒になるのはヤバイと思ったんでしょう?
    幹部: ヤバイとか、うそつきだとか、どうしてそんな事を言うのかっ! 私は誠心誠意、答えているじゃないか!
--あなたに選手・監督・コーチに対する誠意がないから、 球団が選手を大切にしないから、 選手もチームを愛することができず、オープン戦も勝てないのではないのですか。
    幹部: 全国の人がテレビで見ているんだぞ! 名古屋ローカルなら、名古屋のファンは優勝さえすれば神様扱いしてくれるからどうってことないが…全国の人がテレビで見ているんだぞ!撤回してもらいたい!撤回…!!
--質問を終わります。