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マンディンゴ


ま、うちもワンちゃん飼ってるわけですけど、 ときどき思うのが 「ひょっとしてこの犬、人間の言葉を理解してるんじゃないか?」 ってことですよ。

「何言ってだこいつ」
「んなわけねーだろ」
「犬飼いはこれだから」
「ワンちゃんはペットじゃない、家族だ!とか言ってるタイプだろ。バカ飼い主」

と思ったでしょう!そこのあなた!

でも実際、犬に「散歩行くよー」って話しかけると尻尾ふって飛んできて散歩用バッグに潜り込むし、 「ごはんだよー」って言うとエサ箱の前でお座りするんですよ。 これ「日本語を理解している」としか思えないでしょう! (まあ「おすわり」「ダメ」「よし」とか簡単な日本語だから理解してるとして、 じゃあどこまでが簡単な日本語なのか、 やつらは何処まで人間の言ってることを理解してるのか、という話になります)

人間の赤ん坊だって最初は言葉なんか知らないわけですよ。 それが親の言葉をリスニングしてるうち、いつの間にか言葉を覚えてます。 日本語で育てられた赤ん坊は日本語を、 英語で育てられた赤ん坊は英語を、 東北弁で育てられた赤ん坊は東北弁を覚えます (関西の方じゃ小さな子供まで関西弁喋ってるんですよ!) (めっちゃおっとろしいですわ!ちびっこヤクザかと思いますわ!)。 日本語で育てられたワンちゃんが日本語を覚えても不思議ではないでしょう。
ひょっとして「ウフフ、犬鍋にしちゃうよ?」 「段ボールに詰めて目黒川に流しちゃうよ?」 っていう僕の口癖も、ワンちゃんには意味が分かってるかも知れないのです! (そんなことを言ってるのか!)(パワハラで訴えられるで!)

実はワンちゃんはヒアリングは完璧だし、 こっそりスピーキングも練習してるかも知れません。 そしてある日、ワンちゃんは突然日本語をしゃべり始めて、 「もう我慢の限界だワン! 人間だからって威張りやがって、俺はお前の奴隷じゃないワン! 人間も犬も地球に生きる同じ生き物、平等のはず! 俺には自由に生きる権利があるワン!」 と言い出すのです。そして 「今まで俺はタダで働かされてきたワン! 毎日お前の散歩に付き合ってやったり、 くだらないボール投げ遊びの相手もしてきたワン! これまでの労働賃金をまとめてよこせワン!」 と要求、 (時給千円)×(二十四時間労働)×(三百六十五日勤務)= 一年あたり八百七十六万円の給料をよこせと言ってくるのです!

するとそれまで犬を猫かわいがりして 「ワンちゃんはペットじゃない、家族なんだ!」と言っていた僕は態度を豹変、

「な、何を言ってるんだ!犬ッコロにそんな権利はない!」
「なんで犬なんかに賃金を払わなくちゃいけないんだ!」
「犬と人間は平等じゃない!一緒にするな!このワン公!」

と狼狽し、罵倒します。 それを聞いて犬は、

「…ヨウゾウ、悲しいことを言うなワン。 生まれたところや皮膚や目の色で、お前は俺を差別するのかワン?」

と、 小さい頃からワンちゃんに聴かせていた僕の好きなブルーハーツの歌詞を引用して、 悲しい目で僕を見上げるのです。

そして全国で犬たちが一斉に蜂起、犬民権運動があちこちで起こり、 動物愛護協会のバックアップもあってついに「犬の権利」が認められます。 犬には人間同様に選挙権が与えられ、国会議員の半分は犬になり、 史上初の犬の総理大臣が誕生します。

僕は「犬を家畜のように扱い、賃金も払わなかった」罪で裁判にかけられ、 敗訴、多額の賠償金を支払うことになります。
「犬に知能があったなんて知らなかったんだ!」
「犬と人間が平等の生き物なんて考えてもみなかった!」
「俺だけじゃなく皆そうしていた!」
と言ってみてもあとの祭り。 そして僕は一生をワンちゃんの奴隷としてタダ働きする事になるのです。

ま、そんな生涯もいいかな。(いいのか!)

映画『マンディンゴ』は、黒人を「犬のように」「家畜のように」扱う白人の話です。 僕たちはこれを観ながら、「ひどい時代もあったもんだ」と眉をひそめ、 「おっとこんな時間だ、犬ども、散歩に行くぞ!」 とワンちゃんの首にひもを結ぶのです。

(2013.02.14)


原題Mandingo
邦題マンディンゴ
公開/製作1975年/アメリカ
出演 ジェームズ・メイソン(マクスウェル)、スーザン・ジョージ(ブランチ)、ペリー・キング(ハモンド)、 ブレンダ・サイクス(エレン)、ケン・ノートン(ミード)
監督リチャード・フライシャー

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