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ミュンヘン


これはチームの選手がデッドボールを受けた腹いせに、 自軍の投手に「ぶつけられたらぶつけ返したれ!」 と報復死球を指示した星野監督と、 本当はそういうことはしたくないのに、 罪悪感とチームへの忠誠心との間に揺れ動く野口茂樹の物語です。

違います。

ミュンヘン・オリンピックってのは一九七二年ですね。このとき、 パレスチナのテロ組織によりイスラエル代表のオリンピック選手が十一人虐殺されるという事件がありました。 これに対しパレスチナは、諜報機関モサドを使ってテロ組織の要人を十一人選び、 暗殺計画を行っていたことが関係者の証言で明らかになりました(当局は否定) (サンスポやスポニチが飛ばし記事で使う「関係者」とは違う本当の関係者です)。 時系列では以下になります。

[一九七二年] ミュンヘンでイスラエル代表選手が殺害される。
[一九七四年] イスラエルによる報復開始。
[一九八四年] モサドが水面下でテロ組織の要人暗殺を行っていたことが明らかになる。
[一九九四年] 落合、中日から読売にFA移籍。
[一九九六年] 星野監督が中日の監督に就任。
[一九九六年] 野口、落合の手首に死球をぶつける(落合は骨折)
[二○○五年] 映画『ミュンヘン』公開

落合は一九八六年オフに、星野監督(中日、当時)が「世紀のトレード」で獲得しました。 年俸の上がりすぎた落合を放出したかったロッテは、 読売とのトレード交渉を進めてたんですが交換要員で難航 (水野なんかで落合は獲れませんよ!)、 そこへ星野監督が「何が何でも落合を獲れ!」と号令し、 主力数人を放出する大出血トレードで落合獲得に成功したんですね。 入団会見で落合は「星野監督を男にするためにやってきました」と笑顔を見せ、 この頃は二人はとてもいい関係でした。

あれ、何の話だっけ。ああ、『ミュンヘン』の話でした! すみません何か横道にそれてしまって!

しかしその後、高木監督時代に落合はFAを使って読売に移籍してしまいます (横道にそれてますが戻す気はありません!)。 これで「ムッ」としたんでしょうね。 第二次星野政権が発足した一九九六年、 落合は対中日戦で左手首にデッドボールを喰らい、 骨折で残りのシーズンを棒に振ってしまったのです!

これは言ってみれば星野仙一の落合に対するテロ攻撃ですよ! その前にもセンイチは落合敬遠のケースで中日バッテリーに対し、 「インコースへ外して、のけぞらせろ!」と指示を出しています。 インコースへ外してのけぞらせる敬遠なんて聞いたことがありません! あわよくばぶつけようという敬遠テロですよ!

野球界では残念ながら「テロ死球」というものが暗黙の了解で存在していて、 死球を食らったとき相手に対し「報復」を行うことが慣例であるかのようになっています。 アメリカでは大学野球で報復死球を受けた打者が選手生命を失うような大怪我をし、 ピッチャーを訴えましたが、 裁判では無罪判決が出ました。 アメリカ司法が「死球による報復」を容認したのです(!)。

解説者や評論家の中には「メジャーでは報復死球は当たり前だよ」 という人もいます。 「メジャーで報復死球は当たり前だよ」、なるほど、分かりました。 それで、次に続く言葉は?

(一) 「だから日本でも報復をするべきだ」
(二) 「だが、ここは日本だ。報復はさらなる報復を生むだけ。アメリカを見れば分かるじゃないか!」

(2012.8.30)

原題Munich
邦題ミュンヘン
公開/製作2005年/アメリカ
出演 エリック・バナ(アヴナー)、ダニエル・クレイグ(スティーヴ)、ジェフリー・ラッシュ(エフライム)、マチュー・アマルリック(ルイ)、マイケル・ロンズデール(パパ)
監督スティーヴン・スピルバーグ

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