9月23日、無死一二塁のチャンスでバッターは井上。ベンチのサインは送りバントだった。
しかし、
次打者が中村という事で普段送りバントなどした事のない井上
は、2球続けてバント失敗、
簡単に2ストライクと追い込まれてしまう。
ところが、2−1から黒田が不用意に投じた1球を井上はジャストミート、
打球は中日ファンの待つライトスタンド中段へドギューン!と突き刺さったのだ。
「やった!」。
思わずガッツポーズをあげた井上だったが、手の角度が水平になったところで、ふと気付いた。
「ハッ!…そういえば昔、宇野さんがバントのサインでホームランを打って、
星野監督に殴られたことがあったような…!?」
井上のあげた手がストップする。「やべ〜、俺も殴られるのかな…?」。
中途半端にあげた手を下げるタイミングを失した井上は、
カモメポーズのままグラウンド一周、
おそるおそるベンチに帰ると、星野監督にすごい形相で睨まれた。
「ちょっとは喜んでくれてもええやないかオヤジ、って思いました」
(井上)
その2日後の25日、
今度はちゃんとした2試合連続となる決勝ホームランを放った井上は、
両手を高々とあげるグリコポーズ
で前の試合の鬱憤を晴らした。
「前回、みんなにガッツポーズが地味や言われたんで、
今度こそちゃんとしたガッツポーズをしようと思って打席に立ってました」
(井上)
そしてあの忘れようとしても思い出せない9月30日、
「勝って胴上げ」を信じて疑わない熱狂的中日ファン3万5千人がジャックした神宮球場で、
井上はレフトフェンス直撃の決勝タイムリー2ベースを放つ。
「美味しいとこ獲りの井上」の名にふさわしい
夢を乗せる劇的な逆転打に、2塁塁上で井上は
鶴ポーズ
で喜びをアピール。
カモメポーズでは水平にあげた手がグリコで垂直に、
そして鶴では左足まで高々と上げ、
上げられるものは全部上げて
ガッツポーズの進化3段階を完成させたのだった。
「何であんなポーズしちゃったんでしょうね。自分でも分かりませんよ」
(井上)
などという割には優勝決定後の10月2日、
横浜スタジアムで練習中にファンからの「カズキー!」という声援に
鶴ポーズで応えていた
あたり、本人は結構気に入ってるようだ。
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